江口のりこの快進撃がすごい。春の「あまろっく」に続き、盛夏の「お母さんが一緒」、そして本作ととどまるところを知らない。
本作を含めた江口主演3本の共通項は「異色ホームドラマ」。家族間の齟齬や対立の中で、ヒロイン・江口が見せる独特の仏頂面とストレス顔が大いに見ものである。
原作は「悪人」「湖の女たち」などで知られる作家・吉田修一の同名小説。家庭内で居場所を奪われ、追い詰められた専業主婦役の江口の怪演に興味津々である。
夫の真守(小泉孝太郎)の実家で、敷地内の“はなれ”で暮らしている専業主婦の桃子(江口)は、結婚して8年、子供はいない。義母の照子(風吹ジュン)から受ける微量のストレスや夫の無関心を振り払うように、装いや家事などにも気を配っていた。
そんな桃子の周辺に、近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、愛猫の失踪など不穏な出来事が続く。さらに、夫に愛人の奈央(馬場ふみか)がいることが発覚し、桃子のストレスは頂点に達した─。
カメラワークなどでとことんヒロインを追い詰め、江口の息遣いの荒さなども引き出す森ガキ侑大監督の演出が冴える。いつの時代も不当に軽んじられてきた専業主婦の“暴発”を鮮烈に描破する。
クライマックス、江口は“電動ノコ”の荒ワザまで繰り出すが、決して「悪魔のいけにえ」的ホラースリラーにはしないところが、本作の知性と理性だろう。
このストレス妻の暴走をどう受け止める?亭主族の肝をどう冷やす? 問題作なのは間違いない!
(8月30日=金=より全国公開、配給・東京テアトル)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。