猛暑の夏にはホラー映画で涼しくなりたい。本作は、漫画家・押切蓮介の同名作品。「貞子vs伽椰子」(16年)の白石晃士監督で実写化された。
呪われた家とは知らずに引っ越してきた一家の受難を描く一見、ジャパニーズホラーの王道に見えるが、中盤以降の展開に驚愕する、異色作に仕上がった。
父親の昭雄(梶原善)が購入した念願のマイホームに、年老いた祖父、認知症の祖母・春枝(根岸季衣)を含む一家7人で越してきた神木家。中学3年の長男・則雄(南出凌嘉)はこの一軒家をすぐに気に入った。ところが小学5年生で怖がりの弟は入居早々、「暗闇が怖い、引っ越したい」と言う。
その不吉な予感は的中し、一家は次々と怪奇現象に襲われる。実はこの家には、前にこの家に住んでいて、虐待された少女・サユリの霊がとりついていたのだ。サユリの霊は家族愛に満ちた神木家を逆恨みし、呪い殺してゆく─。
舌が異常に伸びた絞殺死や、四肢が明後日の方向にねじ曲がった転落死など、その残虐描写はさすがホラーの名監督ならでは!
しかし、この映画が凡百の呪い系ホラーと異なるのは、シーン後半にある。家族が1人ずつ殺され、いよいよ最後の2人となった時、突然、祖母・春枝が覚醒して、悪霊と肉弾戦で戦い始めるのだ。しかも、春枝は興信所まで使ってサユリの弱点である「家族」を突きとめ、彼らに対してエゲツナイ報復を行う。幽霊の10倍くらいは狂暴凶悪なこの婆さん、絶対に怒らせてはいけない存在だったのだ。実写版で見ると、漫画以上にシュールで、極上の恐怖と笑い(?)を同時に味わえる、他に類を見ない一本となっている。
(8月23日全国公開、配給・ショウゲート)
前田有一(まえだ・ゆういち)1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者などを経て、現在の仕事に就く。著書「それが映画をダメにする」(玄光社)など。