彗星のごとく現れ、本年度最注目女優と衆目が一致する「あんのこと」の河合優実の映画最新主演作だけに見逃せない。
監督の山中瑶子もまた今年27歳の新星で、これが長編第1作となる。この2つの若い才能の融合が、カンヌ国際映画祭の監督週間で「国際映画批評家連盟賞」を受賞した。アフリカ・ナミビアの砂漠ならぬ東京の片隅で、若きヒロインの“もがき”が鮮烈に描き出されてゆく。
大都会の片隅で暮らす21歳のカナ(河合優実)は、優しいけれど退屈な恋人のホンダ(寛一郎)と同棲生活を送っている。やがて、自信家のクリエーター、ハヤシ(金子大地)とも密かに付き合うようになる。
ある日、出張から帰ったホンダの様子がおかしいことに気づくカナ。実は断り切れず出張先で性的サービスを行う店に行ってきたことを告白する。カナはホンダと離れハヤシと新生活を始めるが…。
題名がナミビアの砂漠だが、エンドクレジットで砂漠のオアシスとそこに集まる動物たちが映し出されるが、本編にはない。あくまで舞台は、街も人も乾き切った、いわば「東京砂漠(そんな題名の歌が昔ありましたな)」の中で、世の中にも、自分の人生にも退屈しているカナの皮相な日常、諦念にも似た境地が鮮烈に描かれる。
「(この国は)どうせ少子化と貧困で滅びる。願望は生存です…」のカナのセリフが示すように、ヒロインが放つ数々の悪態は、毒矢か怪光線のように私の胸を射貫く。本当の居場所を探そうと〝もがく〟彼女が愛おしい。河合優実がこれまで演じてきた反抗的、反社会的キャラの究極がここにある。
カンヌの金看板はダテじゃない!
(9月6日全国公開、企画制作・配給 ハピネットファントム・スタジオ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。