10月20日放送のNHKスペシャル「ジャニー喜多川“アイドル帝国の実像”」を視聴してモヤモヤした気持ちを抱いた人が大勢いるようだ。特に視聴者の気持ちをモヤらせたのは、まずはNHK社員としてドラマの制作統括などの仕事をしていた若泉久朗氏が2022年に同局を退職後、ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)の顧問になっている事実と取材をスルリとかわそうとした態度だろう。
NHKの現場取材スタッフは、1年前から若泉氏に取材依頼していたが直接会えなかったため、いわゆる「凸」こと突撃取材を決行。カメラを持って私服と思しき若泉氏にコメントを取りにいくと、若泉氏は手でカメラを制止。第1声は「なんで僕なんですか?しかも仲間じゃないですか、わたくし」。その後は「僕個人で今ここで語ることはできない」「ちゃんとSTARTO ENTERTAINMENTの広報を通してもらわないと」などと言い、突撃は不発に終わった。
後日、広報を通して寄せられた「ジャニー喜多川氏の性加害について、若泉氏はいつ認識しましたか?」の書面回答には、要約すると「文春報道は知っていたが局内で注意喚起はなかった。NHKも報道していなかった」とし、「幅広い視聴者層の獲得のために旧ジャニーズ事務所は重要なパートナーの1つだった」ことは認めたが、最後は「公共放送として、これからも支持されるためにはどうあるべきか、NHK自身が問われていると考えます」と締めくくられていたから、若泉氏は質問にきちんと答えず、論点をずらした回答をしているとしか思えない。
さらに番組終盤に放送された、ジャニー喜多川氏による性加害の救済機関として、昨年10月17日にジャニーズ事務所から社名変更したSMILE-UP.(スマイルアップ)の「補償本部本部長」が被害者遺族であるアイドルグループ「ジャニーズ」の元メンバーである中谷良さんの姉・幸子さんとの電話でのやり取りが衝撃的すぎた。
いわゆる暴露本「ジャニーズの逆襲」で性加害を告発した中谷さんだったが、姉の幸子さんが謝罪を求めると「誰が何を謝るんだというのが、ちょっと今わからなくて。本人たち(加害者であるジャニー氏と被害者である中谷氏)が死んじゃっているんで」「本を書かれて痛めつけられたのは間違いないんで。会社としては、すごくつらい目にあったのは間違いないんで」「なんで(現社長の)東山が(謝罪を)しなきゃいけないのか、僕、わかんないんですよ」などと耳を疑うような言葉が次から次へと飛び出したのだ。
最終的に東山紀之社長が謝罪したとナレーションで説明はあったが、「口の利き方も知らないのか!」と言いたくなるほど非常識な電話対応をした「補償本部本部長」は、自分の役割を理解していないにもほどがある。番組の最後には「NHKからのコメント」として「この問題はこれで終わったとは考えていません。NHKも当時の認識や対応が十分ではなく、メディアの責任を果たせなかったと自省しています」などと表記していたものの、同時にNHKが10月16日にSTARTO ENTERTAINMENTの所属タレントへの出演依頼を可能とすると発表したことも表記されていた。「この問題」についてカラダを張って凸してでも掘り下げたい報道局と、これ以上「この問題」に触れてSTARTO ENTERTAINMENTの所属タレントが出演させられないことになったら困る、ドラマや音楽番組の制作局とが、NHKの中で内部分裂しているのではないだろうか。
NHKを含む旧ジャニーズ事務所に関わっていたすべての人々に、このモヤモヤした気持ちを晴らしてもらいたい。
(津島修子)