今回は「会話が苦手」だと思っているあなたに朗報です。ちょっとの工夫で、あなたは“会話名人”になれます。(写真はNHK新人アナ時代)
■「テレビカメラの“目線”テクニック」~カメラのどこを見る?
NHK入局後、研修所で2カ月間、合宿状態で、アナウンサーになるための研修を受けました。最初に教わったのは「テレビの映り方」。具体的に言えば、「カメラの“どこを見る”か」 でした。
眼の細い私は「ターリーランプを見ろ」と言われました。カメラのレンズの上の赤いランプです。そこが私の「目の表情が一番いい」というのです。新人時代の私は、ターリーを見るという不自然な目線で頑張ったものです。
でも今は、ターリーを見て話すアナウンサーは(私も含めて)1人もいません。みんなレンズの真ん中を見ています。なぜなら、そこにカンペ(原稿)が写る、ありがたい仕掛け(プロンプター)があるからです。
でも、そうすると、あの私のステキな「目の表情」はいったいどうなるのでしょう?
なーに、よく考えてみれば簡単なことだったんです。あごを引くか、出すかして調節すればいいのです。何も、頑張ってターリーランプなど見なくてもよかったのです。みなさんも、カメラ写りをよくしようと思えば、「ちょっとあごを引いてみる」といいですよ。
かくして、カメラ目線の問題には答えが出たのですが、インタビューなど、1対1の“対話”の場合の“目線”はどうすればいいのでしょうか?
■インタビューの“目線”テクニック ~相手のどこを見る?
ある時、「接客の研修」で、そこの売り場の課長さんが控え室にやってきて、こうおっしゃいました。
「中村さん、私は“ちゃんとお客様の目を見て話さなければいけない”と思って、一生懸命頑張っているのですが、どうしてもうまくいきません。苦しくなってくるのです」
みなさんの中にもこんな悩みをお持ちの方は多いはずです。私はこう答えました。「そりゃ大変です。大分県の高崎山というサル山の看板に『サルの目を見ないでください』と書かれています。つまり動物の場合、目を見るというのは“戦いの合図”なんです。ネコのケンカなんか見てても、先に目線をそらしたほうが負け。人間にもこの行為は残っていて、“ガン(眼)をとばす”という、あまり品の良くない言葉もあります。無理して目を見るのはやめましょう」 とね。
しかし、だからといって、目をそらしたまま話を続ければ、それこそケンカになってしまいます。
ではどうしたらいいのでしょうか?アナウンサーの“顔コミュニケーション”はどう教えているのでしょうか?以下、ご紹介します。
一般に、1対1での会話において、相手の顔に視線を向ける割合は、全会話の30~60%と言われています。ずっと顔を見続けないほうが自然なのです。ま、顔を見るのは、対話時間のおよそ半分、50%だとして…その時、顔のどこを見るか。
アナウンサーは、「相手の“口”を見て話せ」 と教わります。目線を上げすぎると挑戦的な表情に、下げすぎると、自信なさげに見えてしまう。
でも、「口を見て会話すると失礼にならないし、何よりも、相手の話(口の動き)がよくわかる」のです。しかも、「会話が苦しくなく、楽しくできる」のです。
でも、まったく目を見ないわけにはいきませんから…、結論として、私なりの秘訣をお教えします。
それは、「話し始めと話し終わりは、相手の目を見る。あとは“口”を見る」 です。「会話が苦手」だと思っている方、実際にやってみてください。いくらでも、楽しく話ができるはずです。
これだけであなたは、ステキな“会話名人”になれます。
次回は、「アナウンサーの“気配り”テクニック」です。日常会話で使えば、好感度最高。
●プロフィール
なかむら・かつひろ 1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演テーマ 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」