社会現象にもなった大ヒット映画「エマニエル夫人」(1974年)の公開から、今年で半世紀となる。シリーズ化され、多くの女優がヒロインを演じたが、初代シルビア・クリステルは故人となって久しく、時の流れを感じる。そんな中、舞台を現代に移して新たに映画化された。
「あのこと」(2022年)でベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した、フランス人女性監督のオードレイ・ディヴァンを起用。オトコ目線だった第1作と違い、物語も艶シーンも「女性主導」になっている。ヒロインを演じるモデル出身の(フランス人)ノエミ・メルランは、同性同士の愛を描いた「燃ゆる女の肖像」(20年)で見惚れたが、今回も、必須の美しい、着衣を脱いだ体とからみの艶っぽい描写も含め、見事に自己主張し、初代を超えた。
ホテルの品質調査の仕事をするエマニュエル(ノエミ)は、オーナー企業の要請で、香港の超高級ホテルに滞在し、査察を進める。サービス、施設など最高評価の報告書を提出するが、なぜかオーナーからはホテル経営陣のマーゴ(ナオミ・ワッツ)を懲戒解雇できるようなアラを探せ、と命じられる。ホテルの裏側を調べ始めたエマニュエルは、関係者や妖しい宿泊客たちから、禁断の快楽へと導かれてゆく─。
何よりエマニュエルをバリバリのキャリアウーマンの設定にしたところが、いかにも21世紀仕様だ。第1作の有閑マダムの東洋アヴァンチュール的な要素は皆無と言ってよい。謎の宿泊客たちとエマニュエルの対峙は、実にスリリングで、マーゴ役のナオミ・ワッツもミステリアスだ。
本作はこれまでと一新したエマニュエル像を描いている。タイトルに「ュ」の入るこの「エマニュエル」を私は歓迎する。
古い革袋に入った新しい〝艶やか美酒〟を味わおう。
(1月10日=金=よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開 配給:ギャガ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。