近年、村を舞台に妖怪や連続殺人鬼が跋扈するホラー作品が連発されているが、こちらは村の掟を描いたヒューマン・スリラー。都会から移住し「ムラの掟」に翻弄される若い夫婦を、乃木坂46の元メンバー・深川麻衣、「市子」(2023年)で好演した若手演技派の若葉竜也が演じている。監督は、ピンク映画で名を成し、「夜、鳥たちが啼く」(22年)の才人・城定秀夫だけに大いに注目される。
田舎暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈(深川麻衣)は、脱サラした夫・輝道(若葉竜也)と都会を離れ、麻宮村に移住。自治会長の田久保(田口トモロヲ)を過剰に信奉し、度を超すお節介をやく村人たちに辟易しながらも、2人は新天地でのスローライフを満喫していた。
だが、杏奈は田久保に「子作り」を強要されてから疑問を感じ始める。一方、輝道は、田久保の仕事を手伝いながら、しだいに彼に感化され、この村の隠された“掟”を知ってしまう─。
深川麻衣が感情をあらわにしてイメージを覆せば、若葉竜也はダークな内面を醸し出す。2人を単に不気味な村の被害者に終わらせない、城定監督の巧みな演出が見事だ。田口が、村のボスとは思えない柔和で狡猾さを喜々として演じ、こういう奴が一番ヤバいと思わせる。クセ強な村人を杉田かおる、片岡礼子らの個性派が好演。この作品は、都会も田舎も関係なく最も怖いのは「人の心」と教えてくれる。
後半で明らかになる「ムラの掟」はネタバレになるので内緒だが「さもありなん」と実に説得力がある。荒唐無稽になりがちな展開を見事に着地させた「ヴィレッジ・スリラー」の快作だ。難読字を重ね合わせたユニークな題名に誘われて、損はない!
(1月24日=金=より新宿バルト9ほか全国公開、配給 ショウゲート)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。