中村蒼が現在、NHKドラマで稀有な個性を発揮している。1つは大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」での、横浜流星演じる主役の蔦重こと蔦屋重三郎の義兄・次郎兵衛。もう1つは「東京サラダボウル」での、松田龍平演じるアリキーノこと有木野了の最愛の人で今は亡き織田覚だ。
「べらぼう」での次郎兵衛は、流行りモノが大好きで自由気ままな趣味人、いわゆる“放蕩息子”だ。しかし2月16日放送の第7話「好機到来『籬(まがき)の花』」では、蔦重の「吉原細見」に対する決心を受けとめると、一瞬だけ顔を見つめてから急に、蔦重の頭というか髷部分を優しく撫でるのだが、これが実に「弟を思う兄」っぽくて良かったのだ。「何すか急に」と撫でられて嫌がる蔦重に対して、「うん、何だかさ」と撫でる手を止めない次郎兵衛(中村)は、まさに「べらぼう」の「癒やしキャラ」で心が温かくなった。
そんな「次郎兵衛兄さんを演じる中村」が頭の中に残っている状態で、2月25日放送の「東京サラダボウル」第8話「鳩とコインランドリー」の冒頭シーンを見たら、中村演じる織田にやられてしまった。2012年に織田と有木野(松田)が代々木西署に配属された時の回想シーンだったのだが、織田が有木野に「よろしくな、了」と言って笑顔で腕をポンポンと何度も叩くのだが、有木野と同じように口元を緩めてしまった自分がいた。「わかるよアリキーノ!キミは今そこで織田にオチたよね?」と言いたくなった。ついでに「中村蒼はスキンシップの天才かよ!」と叫びたくなった。
これまで中村の最大の魅力は、「相好を崩す」という言葉を具現化したような、端正な顔のパーツすべてが曲線になったような笑顔だと思っていた。しかしこれからは、中村が繰り出すアドリブのようなスキンシップを絶対に見逃すまいと思う。
(森山いま)