本作は、2003年にメディアで話題となり、創作落語にもなるほど話題を集めた実在する夫婦の物語を映画化したもの。
読者にも今年で結婚○○周年を迎える中高年夫婦も多かろう。私もご多分にもれずそのクチで、長続きしただけでも、ご立派だと思いたい。さらに、この映画の夫婦のように互いを認め合い、支え合えれば理想的だろう。
国民的人気を誇る笑福亭鶴瓶と、若き日と変わらぬイメージの原田知世が夫婦役で共演。まさに〝理想の配役〟ではないか。若き日の彼らは重岡大毅と上白石萌音が演じ、こちらも適役。「今日も嫌がらせ弁当」(19年)などで定評のある塚本連平監督の演出も手堅い。
65歳の西畑保(鶴瓶)は、実は読み書きができない。彼の傍らには、いつも最愛の妻・皎子(原田)がいた。半世紀以上前、保(重岡)は貧しい家に育ち、ほとんど学校に通えないまま成人した。そんな彼を寿司職人として育てた逸美(笹野高史)との縁から、皎子(上白石)と結婚する。読み書きができないことを最初は隠していた保だが、すぐにバレて破局も覚悟した。だが、皎子は「今日から私があなたの手になる」と励ますのだった─。
定年退職を機に一大決心。夜間中学に通い、愛妻にラブレターを書けるように、読み書きの習得に悪戦苦闘する主人公の姿に、改めて〝人間、一生勉強だなあ〟と観る者に思わせる。原田知世の性根を据えた良妻ぶりが眩しい。
夫婦の会話も実によく、35年目の〝劇的展開〟についホロリ。ヒネクレ中高年度で、人後に落ちない私でも素直に心動かされたのだから間違いない! 長年連れ添った妻への感謝の行動を始めますか? ご同輩!
(3月7日=金=より全国公開、配給 東映)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。