ドラマにおいて、キャスティングを見ただけで「きっとこの人が黒幕」「おそらく真犯人はこの人」と予測されてしまう「実は悪人」が似合う役者がいる。
今や「実は悪人」枠のレジェンドと言えば、小日向文世の右に出る者はいないだろう。忍成修吾もこの「実は悪人」枠の1人だと思うし、最近では小池徹平もこの枠に参入したと言っていいだろう。
忍成は3月26日に最終回を迎えた上川隆也主演「問題物件」(フジテレビ系)の第9話、第10話でその演技力を発揮していたのは記憶に新しい。小池に至っては3月20日に最終回を迎えた「私の知らない私」(日本テレビ系)で「実は悪人」枠にがっつり新加入。今後は小池がドラマに「いい人」として登場したら「実は悪人なんでしょ?」という目で見てしまうと思う。忍成が昨年放送された松本まりか主演「夫の家庭を壊すまで」(テレビ朝日系)で「本当にいい人」を演じた時に味わった、落ち着かなさや物足りない気持ちを、小池に対しても抱くことになるだろう。
そんな「実は悪人」枠の対になる「実はいい人」枠の開拓者として、酒向芳を挙げたい。3月28日に最終回を迎える「クジャクのダンス、誰が見た?」(TBS系)では、真犯人が自分以外にいることを知っていながら死刑囚でいるのは、息子・友哉(成田凌)の生活を守るためという遠藤力郎を演じている。「実はいい人」枠の極みのようなキャラだ。
酒向は昨年放送された「海に眠るダイヤモンド」(TBS系)でも、いづみ=朝子(宮本信子)の気が利く秘書だと思っていたら、実はメインとなる「家族」の一員だったことがわかり、「ずっと黙って朝子に尽くしてきたいい人」として視聴者を驚かせた。2021年放送の吉高由里子主演「最愛」(TBS系)で演じた15年前に失踪した息子を捜し続けて真犯人に殺害されてしまう渡辺昭も「実はいい人」にカウントしていいと思う。
酒向は「実はいい人」枠のキャラばかりを演じているわけではないが、ヤバそうに見えても「実はいい人」が特に似合うと思うのだ。3月28日放送の「クジャクのダンス」最終回では、力郎(酒向)の記憶によれば林川歌の泣き声は林川邸の1階から聞こえていたはずなのに、歌が発見されたのはなぜ2階だったのか、その理由が明かされれば、力郎の無罪が確定すると思われる。
無実の死刑囚・力郎に幸あれ!
(森山いま)