刑務所を題材にした映画といえば「虐待、暴動、脱獄」と相場が決まっていたが、本作は、実在するニューヨークのシンシン刑務所を舞台に、収監者たちの友情と再生を描いた実録ヒューマン劇。決して、ありがちな展開にはならないところも要注目だ。
監督のグレッグ・クウェダーは、脚本・製作も兼ねたという点からも、本作への熱い思いが伝わる。今年のアカデミー賞では、主演男優賞など3部門でノミネートを果たした。
ディヴァインG(コールマン・ドミンゴ)は、ニューヨークで最も厳重なセキュリティが施されたシンシン刑務所に、無実の罪で収監された。彼は、刑務所内更生プログラムである「舞台演劇」グループに所属し、収監仲間たちと演劇に取り組むことで、わずかながらに生きる希望を見出していた。ある日、刑務所イチの悪党として恐れられているディヴァイン・アイ(クラレンス・マクリン)が演劇グループに参加することになった─。
驚きなのは、主演のドミンゴ以外は、シンシン刑務所の元収監者という点だ。「舞台演劇」プログラムの卒業生および関係者である俳優たちが参加していることだ。「芸は身を助ける」「人生やり直せる」ということか。元収監者のクラレンスは、抜群の存在感で「アメリカの安藤昇」と言ってもいい。
シンシン刑務所での撮影は、稼働中のため断念したが、別の刑務所を使ったため、リアル感満載だ。本作は、「塀の中」に入らざるをえなかった男たちの「敗者復活戦」に心を寄せることができる。“刑務所あるある”ネタも含めて、「ムショ映画は暴力的」という先入観に“人間味”という風穴をあけた好編だ!
(4月11日=金=より公開、配給 ギャガ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)