1962年に36歳の若さで、この世を去ったハリウッド女優のマリリン・モンロー。彼女ほど多くの評伝、小説、劇映画、記録映像などで扱われた女優は他にいないだろう。
そんな不世出の大スターの生涯をたどったドキュメンタリーである本作は、“モンロー・マニア”のイアン・エアーズ監督が、10年以上もかけて、徹底調査と取材を重ねて完成させた。来年はマリリン・モンロー生誕100周年である。ファンならずとも、一見の価値アリだ。
親の愛に恵まれぬ幼少期や性的虐待の傷を乗り越えたモンローは、モデルとしてキャリアを積み、映画界でチャンスをつかむため、艶っぽいドレスでみずからをアピールし、大スターとなる。しかし、典型的な“色っぽブロンド”のイメージから抜け出せず、モンローは悩んでいた─。
私が映画を意欲的に見始めた頃には、彼女はすでに他界していたので、同時代性は希薄だが、圧倒的存在感には抗えない。若くして斃たおれた女優には愛着もひとしおだ。本作から伝わってくるのは、聡明な策略家の素顔。つい「あの悲劇は避けられたのでは?」と夢想してしまう。
私も、モンロー関連の多くの作品には目を通したが、エアーズ監督の熱気と愛情をヒシヒシと感じ、力作、労作と感嘆の声を上げずにはいられない。映画デビューも性的関係にあった大物ギャングの後押しが大きく、「彼女は裏社会によって造られ、裏社会によって消された」との説も一聴に値する。謎が多い死の真相も新たな見解で迫っていき、改めて、モンローへの愛着が増すこと必至だ。
なお私の連載も今回で一区切り。シメでモンローを扱えて、映画は女優で見る者としては冥利に尽きます!
(5月30日=金=よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開、配給 彩プロ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)