京都・舞鶴市内で4月4日に開催された大相撲の春巡業にて「女性の方は土俵から降りてください」と行司がアナウンスした一件が波紋を広げている。6日には各局の情報番組でも一斉にこの問題を取り上げ、女性たちが救命措置のために土俵に上がったことから「人命よりしきたりか」と、日本相撲協会への猛烈な批判が巻き起こっている状況だ。
この件に関しては、そのアナウンスを発した行司を個人攻撃するのはおかしいとの意見もある。そして、働き方に関する著書もある女性ライターは、自分自身もこのニュースに接して憤慨したと前置きしつつ、「この問題を相撲協会への批判に留めてはいけません」と警鐘を鳴らす。
「もちろん相撲協会の判断が愚かだったことは間違いありません。しかしこの件を受けて『女人禁制を見直せ』などと、相撲協会の体質を問う方向に持っていくのは、それ自体が女性たちを置き去りにした論調であることに気づくべきです。なによりこの一件の本質は、日本の男性社会に根深く残る“女性差別”にほかなりません。それを最も象徴しているのが、観客が発したという『女は土俵から降りろ!』との発言。目の前で人が倒れるという一大事なのに、当事者でもない観客がなぜそんなことを口に出すのか。そんな男性側の意識こそ、女性たちが憂うべき現実ではないでしょうか」
この意見には「女性差別を持ち出すとは大げさな」との異論も出そうなものだ。しかしそう感じること自体、性別を理由に差別されることのない男性ならではの発想なのだという。前出の女性ライターは、アメリカの大リーグに置き換えて考えてみてほしいと語る。
「大リーグの試合ではアメリカ国家の斉唱があります。もしそこで『日本人はグラウンドに入らないでほしい』と言われたら、アメリカのお祭りだからと納得できなくもないでしょう。でもその最中に選手が急に倒れ、日本人の医師や看護師が救急救命に駆け付けたときに『日本人は出ていけ!』と言われたらどう思いますか? 今回の土俵問題はそういうことなんですよ。いま一部では女人禁制をすぐに撤廃しろとの意見も持ち上がっていますが、それは問題の本質から目をそらしかねません。女性差別をなくすことは、伝統やしきたりを撤廃することとイコールではないのです」
もし今回の現場に居合わせ、隣の観客が「女は降りろ!」と叫んだときに、その観客に向かって反論できるのか。この女性土俵問題は我々一人一人にそんな問いかけを突き付けているのかもしれない。
(白根麻子)