子どもの学びの現場で、とくに高学年期の子どもへの対応について保護者からいただくご相談のなかに、「うちの子がとんでもない夢を語るのですが、どうしたらいいでしょうか」というものがあります。
頑張れば実現できるものや親としてもぜひ目指して欲しい夢ならよいのですが、「目を覚まして真面目に生きてくれ!」「そんな夢にお金をつぎ込めない」と思ってしまうものもあります。先日お母さんから相談をいただいたKちゃんは、こんな夢を語ったそうです。
4年生のKちゃんは、ピアノやバレエ、英語の習い事をしているのに、受験を視野に入れて塾に通いたいと言い出したそうです。お母さんが理由を問うと、「将来、芸能人になりたい!」とのこと。芸能人になるにはピアノやバレエができるなどの強みがある方がいいし、頭がよい方がクイズ番組やバラエティでも活躍できる気がする。そのため、学習塾での猛勉強も始めたい。そんな要望をお母さんに伝えたそうです。
お母さんの悩みどころは勉強をさせるかどうかではなく、“本当に芸能人を目指させるか”という点。本気で勉強をするのなら応援してあげたいが、そもそもうちの子はそんなことで芸能人になれるのだろうか。堅実に、努力次第で実現できる別の目標に向かって頑張った方がいいような気がする。というか、たとえ成功して芸能人になったとして、グラビアの道に進んでしまったらどうしよう…。小学校低学年くらいまでなら、将来の夢を聞いて歌手と言おうがモデルと言おうが受け入れることができる。しかし、もうすぐ中学生になる今、親としてただただ賛同し、サポートしていてはいけない気がすると、胸の内を明かしてくださいました。
このご相談の後、お母さん、Kちゃんと面談の席を設けました。そこでしていただいたのは、迷いも含めて今のお母さんの気持ちをKちゃんに伝えてもらうこと。お母さんが真剣に我が子の未来を考えていることや、親として簡単には賛同できない気持ちをKちゃんに知ってもらいました。
家で話し合っては「はぁ? うるさいんだけど! 親のくせに応援してくれないワケ?」と答えてしまいそうなKちゃんも、一言一言しっかり受け取った様子。筆者が「親が夢を応援するということは、お金をかけたり、お弁当や送り迎えなどさまざまな協力をしてくれたりするということ。だからお母さんの気持ちも受け取って、気持ちよく応援してもらえるようにしなくちゃね」とKちゃんに伝えると、「塾での勉強も、ピアノやバレエも、無駄にならないようにテレビを見る時間をなくして頑張る!」と、真剣な表情でお母さんに伝え、特技も学力も本気で高めていくことを決意しました。そんなKちゃんの意欲と決意に感動したお母さんは、中学受験を応援することにしたのでした。
夢が叶うかどうかは、どんな夢でもやってみないとわかりません。たとえ叶わずとも、努力はその子の魅力として磨かれますし、努力していくなかで、さまざまな人との出会いや経験から刺激を受けて目標が変わっていくこともあります。夢を叶えるための努力が親にとってもどんどん経験して欲しいことならば、全力で取り組ませたい。Kちゃんのお母さんはそう思ったと言います。
このように、お互いに同じ方向を向いて歩めるようになればしめたもの。Kちゃんはちょっぴり挫折を味わいながらも、日々本気の挑戦を続けています。
(Nao Kiyota)