前回は“視聴率”によるドラマ査定を行ったが、それは唯一の要素ではない…という新たな時代の潮流も存在する。近年ではお気に入りドラマをリアルタイムの放送時ではなく、レコーダーで録画後にじっくりと鑑賞するという文化も浸透しており、視聴率以上に社会的影響をもたらしたドラマも少なくないのだ。
2011年放送の「マルモのおきて」(フジテレビ系)は実力派俳優の阿部サダヲを主演に据え、まだデビューして間もなかった芦田愛菜と鈴木福のコンビが脇を固めると、シンプルなストーリー構成やエンディングテーマ「マル・マル・モリ・モリ!」の大ヒットで一気に人気が爆発。16週連続でオリコンシングルランキングトップ10入りを果たした同曲の存在もあってか、第1話の視聴率11.6%から、最終話では23.9%にまで上昇して見せたのだ。話数が進むごとに認知度を高めていった成功例であると共に、芦田愛菜や鈴木福といった後のスターを誕生させたという視聴率以上の功績があったといえるだろう。
“ヒット作に名曲あり”とのセオリーは映画界で唱えられるものではあるが、『マルモのおきて』の他にも“名曲”に恵まれたドラマ作品があった。
新垣結衣と星野源が共演した2016年放送の「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)は全話の平均視聴率こそ14.5%だったが、星野源が歌う主題歌「恋」に合わせて踊る“恋ダンス”の人気がSNSの隆盛と見事な親和性を見せ、恋ダンスを真似た一般人の動画やショートムービーが次々にアップされる現象が続いた。また、星野源の所属するビクターエンタテインメントが一定の条件付きで「恋」の音源を使用した動画の掲載を一時的に許可するなど、YouTubeやツイッターのブームを巧みに利用した宣伝を行い、IT文化の成長が著しかった平成を物語るかのような斬新なプロモーションの形があった。
結果的にYouTubeに掲載された「恋」の公式トレイラーは累計で1億9620万再生を記録しており、14.5%という平均視聴率の数字以上に特大のインパクトを与えている。
最近では俳優やタレントのSNSにおける活動も一般化し、主演俳優や女優がファンとリアルタイムで放送の感想をつぶやく“実況中継”のスタイルも散見され、テレビドラマを取り巻く環境も平成30年間の中で大きな進化を遂げたといえるだろう。
終焉の時を迎えた“平成”だが、あなたのハートを射止め、感動をさらった名作ドラマをこのタイミングでもう一度見返してみるのもまた一興かもしれない。
(木村慎吾)