お笑いコンビ・雨上がり決死隊が司会を務めるトークバラエティ番組「アメトーーク!」(テレビ朝日系)で、大阪・西成地区について事実とは異なる差別的表現があったとして物議を醸したが、いわゆる自虐ネタと差別の境界線を明確に定義付けることはテレビ界が背負うべき永遠の課題でもある。
とりわけバラエティ番組のトークでは大阪の地域性などをネタにされることが多いが、その理由のひとつに関西地区出身の芸人が多いという背景もあり、また、関西のお笑い市場を独占する吉本興業の所属芸人が自らの地元や故郷のエピソードを面白おかしく話したがるという傾向もあるだろう。今回問題視された2月14日放送回の「高校中退芸人」ではまさにそうした地元の自虐ネタが過剰な表現を帯びてしまい、最終的に西成地区を「行かない方がいい地域」などと紹介してしまったのだ。
「西成地区についての差別的発言をしてしまったのは、お笑いコンビ・ソノヘンノ女の仲村智美という女芸人。西成に生まれ、西成高校で育ちました。“トイレットペーパーを職員室に取りに行く理由は、盗まれるから”といったエピソードは、彼女からすれば、自らの学生時代の体験談を話したに過ぎないのでしょうが、番組側はこれらの仲村の体験談を“事実と異なる”と説明し、謝罪しています。もしくは仲村の学生時代は真実だったが、今は異なるという意味かもしれません」(テレビ誌ライター)
いずれにしても、己の故郷や縁深い地域、さらには身内までをも全国放送でネタにし、笑いを取ろうとするのは今も昔も変わらない芸人の悪しき性である。先の『R-1グランプリ2019』では大阪出身の河邑ミクが故郷を蔑むようなネタに走り、波紋を呼ぶと、次長課長の河本準一に至ってはかつて『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)で「姉がレズです」と発言し、その場限りの爆笑をかっさらった。
「謙譲語という日本独自の言語文化が存在するように、自らの立場を下げることで相手の懐に入りやすくしようというのは日本人が得意とする手法です。加えて、最近では埼玉県を面白おかしく“ディスる”『翔んで埼玉』の劇場版が大ヒットし、特定の地域や故郷をネタにすることがちょっとしたブームとなっていました。ネットでも『アメトーーク!』における仲村智美の発言については、『地元の話をおもしろおかしく話するくらい良いんじゃないの?』『大袈裟に言ってるけど、全くの嘘ではない』との擁護もあり、仲村自身が西成出身という点を免罪符にする声が多いです。もちろん間違った情報を拡散していたのであれば、出身地に関係なく訂正すべきですが、その根底には西成地区が抱える経済的困窮の現状や治安面の問題があり、仲村の発言は“体験者”による貴重な証言であるとの見方もあります」(前出・テレビ誌ライター)
最も憂慮すべきは、こうした騒動により今後のトークバラエティ番組収録時に過剰な制約が生まれてしまうこと。芸人らの行き過ぎた“自虐ネタ”はどこかでブレーキをかける必要はあるが、一方でアクセルを踏めないようなトーク番組となってはその魅力も半減するだろう。
過去には放送批評懇談会によるギャラクシー賞を受賞するなど、優良番組としても名を馳せてきた「アメトーーク!」。今後は改善すべき点と、残すべき要素をしっかりと吟味していく必要がありそうだ。
(木村慎吾)