テレビドラマの世界にヒエラルキーがあるとすれば、その頂点は言うまでもなくNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)と大河ドラマだろう。そしてそれについで民放の連ドラのトップに君臨(していた)のがフジテレビ月曜9時枠、いわゆる「月9」である。今やそうしたイメージはだいぶ損なわれているのかもしれないが、少なくとも平成の30年間に渡って華やかな“テレビドラマ”のイメージを作り上げてきたのは間違いなく月9であった。
月9が世に送り出してきた作品はまさに粒ぞろい。「東京ラブストーリー」(1991年)、「101回目のプロポーズ」(1991年)、「ひとつ屋根の下」(1993年)、「ロングバケーション」(1996年)と、もはや知らない人はいないと言えるほどの名作を生み出してきた。若い男女がすれ違いを繰り返して最後は結ばれる、といった恋愛ドラマの王道も月9あってこそ。しかし、そんな民放連ドラ界のキングとも言うべき月9にも、大コケした作品がいくつもあった。
最近は全体的に視聴率が低迷していて、時には月9枠の廃止説がささやかれることがある。けれど、路線を変更したのかここ数年は恋愛ドラマは、とんと少なくなって、警察モノ・医療モノ・弁護士モノなどが続き、視聴率も10%を超えるまずまずの結果を残している。ただ、この路線変更以前の迷走期には多くの“大コケ月9”があった。ここではあえてそんな月9枠が生んだ“爆死の駄作”たちを振り返ってみよう。
・「極悪がんぼ」(2014年)
漫画原作を元にした2014年春に放送された「極悪がんぼ」。尾野真千子は月9はもちろん民放の連ドラでははじめての主演となった。が、この尾野真千子主演というのが実は仇。原作の主人公は男性の神崎守だったのだが、尾野真千子を主演に据えるべく主人公を女性の神崎薫に変えてしまったのだ。
「原作の世界観が損なわれている」のは失敗テレビドラマの典型パターン。もちろん出演者の男女バランスなどの都合から性別を変えることはよくあるのだが、さすがに主人公の性別を変えるのは失敗だった。さらに「ガリレオ」などの“非恋愛路線”の作品も増えてはいたが、やはり月9のイメージと言えば王道の恋愛ドラマ。恋愛ドラマの視聴者はどうしたって若い女性がメインになるのだが、「極悪がんぼ」のような「カネを巡る人間ドラマ」となると男性視聴者がターゲット。結果的に毎クール欠かさず月9を見ていたような視聴者層を手放すことになってしまった。
残した平均視聴率はなんと月9で初めて10%を下回る9.9%。民放初主演の尾野真千子にもケチが付く形になってしまい、さらに既存の視聴者層も手放した“月9転落”のきっかけとなった駄作なのである。
(山三大志)