12月22日に開催された「M-1グランプリ2019」(テレビ朝日系)で優勝を果たしたお笑いコンビ・ミルクボーイだが、一体なぜ“史上最高”の漫才コンビは13年もの間、関西に埋もれていたのだろうか。
「オカンが名前を忘れた朝食があんねんけど…」と切り出し、数々のヒントからそれが“コーンフレークかどうか”を模索していく「行ったり来たり漫才」で、M-1史上最高となる681点を叩き出したミルクボーイ。その輝かしい快挙の達成と共に注目が集まったのは、優勝当日まで2019年にテレビで漫才を披露したのが22日のM-1大会のみだった、という異例の事態である。
「“誰も知らなかった”コンビが彗星の如く現れ、最後には歴史を変える高得点とトロフィーをかっさらっていった訳ですから、大会直後から46本のテレビと3本のラジオ出演のオファーが舞い込んだというのも頷けます。ただし、同時に、なぜあれほどのクオリティーを備える芸歴13年目の芸人が全国区で認知されていなかったのかという疑問もあります。また、彼らはあのネタを何年にもわたって劇場で披露し続けており、ぺこぱのようにスタイルを変えたことをキッカケに一気にブレイクしたという訳でもないんです。しかもミルクボーイが優勝を遂げたM-1においても、2人はコンビ結成当初から参戦しており、2018年までは準々決勝進出がやっとという成績でした」(お笑い系ライター)
ミルクボーイがかねてより“お決まりパターン”として披露してきた過去の漫才は、YouTubeにおける2人の公式チャンネルで閲覧可能だが、そこにはいくつかの場面で、ミルクボーイがその知名度を高めることができなかった要因を窺い知ることができる。
「彼らの得意とする“行ったり来たり漫才”では、肯定と否定を繰り返す上で、スムーズな展開と説得力を持たせる為にある種の“偏見”や“決めつけ”を必要とします。たとえば、ミルクボーイの過去のネタには『オカンが好きな動物の名前が分からない』と切り出し、“それは鳩ではないか”と推察していくお馴染みのフォーマットの漫才がありますが、そこでツッコミの内海崇は『鳩と中国人は全然(ヒトを)避けないからね』とやや偏見の過ぎた表現を見せていました。また、他のネタでも『あやとりは女が男に勝てる唯一の遊び』や『競歩という競技ではそこまで盛り上がらない』『競歩の選手では女子アナはいかれへん』との“偏見ツッコミ”が見られ、滋賀県の存在をネタにするディスり風な漫才の動画もアップされています。これらはさすがに年末の全国放送で流すにはリスキーなネタであり、M-1で披露したコーンフレークと最中のネタはその中でも偏見と笑いのバランスが絶妙に取れている“平和なネタ”だったと言えるでしょう。劇場に留めるべき漫才と、全国放送で披露する“勝負の漫才”をきちんと分ける、この辺りのバランス感覚を養うまでにある程度の時間がかかってしまったのかもしれませんね」(前出・お笑い系ライター)
いずれにせよ、彼らはそのスタイルを何も変えることなく、13年前から存在したコンビであり、日本中を驚かせるシンデレラストーリーとなったことは間違いないだろう。
(木村慎吾)