マスコミの大きな影響力により、ぜん息患者に危機をもたらす恐れが浮上しているようだ。新型コロナウイルスの治療に効果があると報じられたぜん息の治療薬が今後、足りなくなるかもしれないというのだ。
その発端となったのは、神奈川県の医師グループが3月2日に公開した報告書。初期~中期の患者に特定のぜん息治療薬(本稿では「治療薬C」とする)を処方して症状が改善した3つの例を紹介したもの。この報告書を情報番組やウェブメディアが次々と紹介したことで、ぜん息患者から不安の声が相次いでいる。
「各種の報道では具体的な商品名も報じられており、おそらくはそれが原因で、メーカーに医療機関から問い合わせが殺到しているようです。日本では2007年に承認された吸入薬で、ジェネリック薬はまだ存在していません。処方には医師の処方箋が必要ものの、どうやら報道で同剤を知った人たちが、万が一のためにかかりつけの医師に処方を依頼している模様。メーカーはぜん息患者への供給を途絶えさせないように出荷調整に入ったといいますが、本当に治療薬Cを必要としているぜん息患者たちに行き渡らない恐れが生じるという、本末転倒の事態となっています」(医療系ライター)
治療薬Cは通常、ぜん息を診る咽喉科や呼吸器科、アレルギー科で処方されており、それ以外の診療科ではなじみは薄い。しかし診療科に関わらず医師が処方箋を書けば処方できてしまうことから、専門知識のない医師が安易に治療薬Cを処方している可能性もあるのだ。
「ツイッターにはぜん息患者からの悲鳴が寄せられています。ぜん息について『咳が止まらないなんて大変だね』くらいに捉えている人も多いですが、実は呼吸困難からの窒息死に至ることもある恐ろしい病気。1995年の約7000人をピークに今でも毎年1000人以上の方が亡くなっており、いまそこにある恐怖なのです。しかもぜん息治療薬には患者ごとの適性があり、治療薬Cがなければ別の薬が使えるとは限りません。それゆえ同剤の在庫不安の報告に、狼狽するぜん息患者が続出しています」(前出・医療系ライター)
いくら新型コロナウイルスの感染封じ込めや治療が急務とはいえ、ぜん息患者が軽んじられることなどあってはならないだろう。
(白根麻子)