夕食のメニューを、こちらが選択肢を与えているのにもかかわらず、自分で決められない我が子。自分が食べたいメニューも分からないのかしら……。当時3年生のRくん。不安になったお母さんから相談をいただいたことを、今でも鮮明に覚えています。Rくんにとって「自分で決める」ということは、ハードルの高いことでした。
夕食のメニューくらいであれば、何もせず放っておいても、成長するにつれて自分で言えるようになるでしょう。もしかしたら、本当に「どちらもよくて、どちらでもよかったから」決められなかったのかもしれません。
しかし、進路を決める、志望校を決める、就職先を決める……いつか「あなたの人生よ。あなたの好きなように決めなさい」と、大きな決断を迫られるときがやってきます。一度決めたらなかなか元には戻れないことや、一生を左右するような決断などは、大人でも思い悩むことがありますよね。自分で決めたのだから、全うせねばという責任意識も生まれてきます。
だからこそ、自由に、好きなように「決める」ということは勇気が必要なこと。幼児期や小学生の時期に“決めることって、難しい”と思うことは、よく考えているからこそ湧き上がってくる不安であるともいえます。
最初に私たち大人ができることは、決断のハードルを下げてあげることではないでしょうか。例えば、今日の夕食メニュー。「僕の好きな方を言ったら僕はうれしいけれど、家族は嫌がるかもしれない。だからちょっと怖いなぁ…」と思っているかもしれません。こんな場合は、「失敗してもいいんだよ。もし選んだ方がよくなかったら、明日はもう片方を試してみようか」と、決断をこの1回きりのことにしないと伝えて上げるだけで、グッとハードルが下がります。
「じゃあ、最後はお母さんがメニューを決めるね。今日はみんなにアンケートをとって決めようかな。みんなそれぞれ好きな方を言ってみて」などと、複数人に意見を求める形式からスタートするのもいいでしょう。最終的な結果が、自分の決断だけにかかっていると感じるときのプレッシャーを、グンとやわらげることができます。
まずは、「簡単なことは選びなさい」というスタンスではなく、「決断には勇気がいるよね」というスタンスで寄り添ってあげてください。そのうえで、少しずつ自分の意見を伝えて結論を出す経験を積ませてあげましょう。「自分で決めて、成功させた!」という経験を一つでも積むと、子どもにとってその後がよりスムーズに、楽しいものになっていくでしょう。
(Nao Kiyota)