現在公開中の映画「はるヲうるひと」では役者だけでなく、脚本、監督も務めている佐藤二朗。佐藤と言えばアドリブなのか仕込みなのかよくわからない、独り言のようなセリフの言い回しを思い出す人が多いのではないだろうか。そんな佐藤に拒否反応を示す人も少なくないようだが、そんな「佐藤の演技が苦手」と感じている人にこそ見てほしいのが、NHK土曜ドラマ「ひきこもり先生」だ。
佐藤が演じているのは、詐欺被害により11年間ひきこもり、妻と娘を手放し、3年前にひきこもりから脱出。現在は「焼きとり うめ」の店主をしている上嶋陽平だ。店内のお品書きが書かれているはずの場所には「店主には話しかけないで」「注文は注文書に」「代金は席に置いて帰って」「サービスはしません」「すみません」と書かれた紙が5枚貼ってあり、店主である上嶋がコミュニケーションを苦手としていることと、風変わりな店であることが一目でわかる仕組みになっている。
そんな上嶋が神奈川県の市立中学校の不登校クラス「STEPルーム」で非常勤講師となり、生徒やその家族、先生、スクールカウンセラーらとかかわっていく様子が、シビアではあるが温かい視線で描かれている。
実は佐藤は、6月12日放送の「土曜スタジオパーク」(NHK)にこのドラマの番宣のために出演した際、唐突に涙が止まらなくなり、ネット民をざわつかせたことがあったのだ。
佐藤は自身が演じる上嶋について「寄り添って、故に子どもたちに近くて、逆に心配されちゃう。でも、人間が生まれながら持っているであろうきれいな考えが、現実ではそんなに甘くないだろうとなるが、人間の核みたいなものを持っている人。核にあるきれいごとを大人が子供たちに‥‥」と説明している途中で涙がじわり。その後、咳払いをしながら「あきらめちゃいかんとかね。それを、上嶋陽平を通じて言えればなって」と続けると、「ごめん、ごめん。急に何だろう」と口元を押さえながら絶句。涙が止まらない状況に。
「ネット上では6月12日に『土曜スタジオパーク』で佐藤が涙を流した意味がわかったという声があがっています。同日放送の『ひきこもり先生』第1話では、不登校の奈々(鈴木梨央)に、何度も『生きよう、生きよう』と繰り返し説得するシーンが印象的でしたが、第2話では、2年前のもらい事故により、タクシー運転手だった父親(村上淳)がうつ状態により就労不能、母親(内山理名)が家を出て『添い寝リフレ』で働くようになっていることで不登校になった陸上部の生徒・坂本征二(南出凌嘉)に、走ることで寄り添う上嶋(佐藤)の姿が描かれたんです。まだ2話しか放送されていませんが、上嶋が不器用ながら体当たりで不登校の生徒とかかわっていく姿は、人の心に寄り添うとはどういうことなのかを教えてくれているようで、これは見ごたえのあるドラマではないかと思います」(テレビ誌ライター)
不登校の生徒に「向き合う」のではなく「寄り添う」上嶋の温かさは、佐藤が演じているからこそ、しらじらしいと感じることなく視聴できる良質なドラマになっているのではないだろうか。