“名優”二宮和也の姿がご無沙汰となっている。一部報道によると、妻が妊娠した昨年は、タイトなスケジュールが続く主演ドラマのオファーを断っていたという。夫婦の間には今年3月、第1子となる女児が誕生した。
近々で最後の主演作は、20年10月に公開された映画「浅田家!」。写真家とその家族の心温まる実話を映画化し、二宮は写真家を演じた。同作は、ある“失敗”によって実現にいたった。
メガホンを取った中野量太監督は、「第40回 日本アカデミー賞」(17年)で優秀作品賞や優秀主演男優賞など8部門を受賞した「湯を沸かすほどの熱い愛」の監督でもある。同年の授賞式でプレゼンターを務めたのは、前年の最優秀主演男優賞受賞者の二宮。緊迫した空気のなか、最優秀主演女優賞を読み上げたが、「『湯を沸かすほどの熱い夏』、宮沢りえさんです」と言い間違えたのだ。
「宮沢は仕事で欠席したため、代理で中野監督が二宮からトロフィーを受け取りました。二宮が言い間違いを知ったのは、授賞式終了後。スタッフから指摘されて知ったそうです。後日、『アカデミー賞では作品名を言い間違えてしまって、ほんとうに申し訳ございません。(中略)僕にできることがあるなら何でもします』といった旨の手紙を書き、事務所関係者を通じて、中野監督の手に渡りました」(芸能関係者)
およそ2年後、中野監督のもとに、実在する写真集を原案にして独自の視点で脚本を書いてほしいというオファーが舞い込んだ。タンスの奥にしまっておいた二宮の手紙を思い出し、ダメ元でオファー。当時の二宮はといえば、主演ドラマの撮影、レギュラー番組の収録、活動休止が決まっていた嵐の最大級のドームツアーの真っ最中。断られて当然だった。ところが、まさかの快諾だった。
「二宮は舞台あいさつでその理由を、『事務所に、中野さんから(オファーが)来たらどんなに忙しくてもやってくれと言っていて。だから、台本を読まないで、二つ返事だったんです』と振り返った。『もしかして、あの手紙のせいで気を使ってキャスティングしていることはないですかと確認してくれと、(事務所の人間に)言いました』と説明しました」(前出・芸能関係者)
二宮には、イヤな思い出があった。「かずなり」を「かずや」と読み間違えられてきたのだ。慣れたといえ、いい気はしない。にもかかわらず、自分が大事な作品名を間違えてしまった。作品名は映画の顔。それを誤ったことを深く反省し、もし中野監督からオファーがあれば、どんな状況下でも受けると決めていた。
「浅田家!」は20年の初週興行収入ランキングで1位になり、二宮は「第44回日本アカデミー賞」で優秀主演男優賞、「第42回ヨコハマ映画祭」で主演男優賞を受賞。中野監督は「第63回ブルーリボン賞」で監督賞を獲っている。
言い間違いから始まった不思議な縁。義理人情の男・二宮にとっては生涯忘れられない作品となりそうだ。
(北村ともこ)