そのアドバイスは結局、自分のためだったのかもしれない。
5月2日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第26回では、アイドル志望のユイ(橋本愛)が、ヒロイン・アキ(能年玲奈)の背中を押す姿が描かれた。その場面にアイドル好きが感心しているという。
この回ではミス北鉄のユイもアキと同じ「北の海女」の衣装を身に着け、二人一緒に北鉄の車内にてウニ丼を販売。各地から二人を目当てにファンが殺到し、最初の分はわずか5分で売り切れに。追加分も完売の大人気となっていた。
「大人気となったアキでしたが、母親の春子(小泉今日子)からは『そんなことをするためにここで暮らしてるの?』とたしなめられることに。ユイと違って容姿に自信がないこともあり『ただの女子高生だ』と自分を卑下していました。そんなアキにユイは、全国からアキ目当ての人が大勢集まっていると説得。なんとかアキとのコンビを継続することができたのです」(アイドル誌ライター)
翌日もユイとアキのコンビで120個のウニ丼を完売。普段は30個限定なので4倍もの売り上げとなった。今後、「潮騒のメモリーズ」として人気を博す二人の出発点となった記念すべき日として、「あまちゃん」ファンにとっても思い入れの深い回となっていることだろう。
ただユイはもとからのアイドル志望であり、高校を卒業したら上京する予定。東京出身なのに原宿や下北沢についてほとんど知らないアキに呆れていたこともある。そんなユイがなぜ、自分の人気を脅かしかねない潜在的なライバルのアキに手を差し伸べたのか。そこには友人という以外の打算的な理由があるというのだ。
「アイドルを目指すユイとしては、ファンからの注目を独り占めにしたいという気持ちはあるでしょう。しかしそれ以上にアイドルとして成功したいという気持ちが強く、まずはミス北鉄としてのアイドル的な人気をもっと実感したいところ。そのためには同級生のアキと組み、ユニットとして活動することが最良の方法だと、直感的に見抜いていたのでしょう」(前出・アイドル誌ライター)
春子が家出して東京に向かった昭和59年(1984年)当時、アイドル業界はソロアイドルが基本だった。2人組のピンク・レディーやトリオのキャンディーズといった前例はあったものの、アイドル志望者のほとんどは松田聖子や小泉今日子のようなソロアイドルを目指していたものだ。
それが作中の2008年になると、大きく事情が変わっていた。春子が上京した翌年の1985年にはおニャン子クラブが人気を博し、1997年に結成されたモーニング娘。は「LOVEマシーン」などのメガヒット曲で時代の寵児へと躍進していた。
2000年代に入ってからは2005年にAKB48、2006年にアイドリング!!!、そして2008年にはももいろクローバーが結成されるなど、アイドル業界はすっかりグループアイドルが中心の時代へと移り変わっていたのである。
「その状況ゆえにアイドル志望のユイも、ソロアイドルを目指す気はなかったはず。大人数グループでの活動を見据えており、北鉄を盛り上げるローカルなアイドル活動においても自分一人のソロではなく、アキを巻き込んでのユニットのほうが可能性があると見抜いていたのではないでしょうか。つまりユイはアキのためではなく、自分のためにアキを巻き込もうとしていたワケです」(前出・アイドル誌ライター)
その行動は打算的かもしれないが、決してアキのことを軽んじているわけではなく、アキにもアイドルとしてのポテンシャルがあることを見抜いていたからこそだろう。
前日の第25回では、動画の再生回数でアキに抜かれたことに発奮し、琥珀掘りの坑道で「めっちゃ悔しい~!」と絶叫していたユイ。その悔しさをアキへの敵対心ではなくユニットして組むことに持っていったユイの気持ちは、アイドルファンなら理解できるのではないだろうか。