その設定に疑問を抱く視聴者もいたようだ。
5月10日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第28回では、主人公の万太郎(神木隆之介)が十徳長屋で部屋を借りることを決意。いよいよ東京暮らしが本格化する様子が描かれた。
そのきっかけとなったのは、十徳長屋に住む倉木(大東駿介)にトランクを盗まれたこと。倉木は博打で手に入れたと嘘をつき、妻のえい(成海璃子)にトランクを質入れさせようとしていた。そのえいを巡って「考証ミスではないか」との声があがっているという。
同じ長屋に住む師匠と呼ばれる人物は、倉木について「上野の山では大勢死んだしのぉ」と説明。公式サイトによると倉木は幕末期の上野戦争で敗退した旧幕府軍・彰義隊の隊士だったという。えいは負傷した倉木をかくまい、それがきっかけで夫婦になったそうだが、その設定には不自然な点があるというのだ。
「旧幕府軍と新政府軍が戦った上野戦争は慶応4年(1868年)に発生し、たった1日で終結。彰義隊(旧幕府軍)はほぼ全滅し、敗走した者たちは東北方面に逃げ散りました。倉木のように東京に残った者がいるかどうかは定かではありませんが、問題はそこではなく、えいの年齢にあるというのです」(週刊誌記者)
万太郎が高知・佐川から上京してきたのは明治15年(1882年)で、上野戦争からはすでに14年も経っている。上野戦争の直後に江戸は東京に改称されており、作中でも常に東京と呼ばれているのは視聴者も知っての通りだ。
一方で倉木とえいには二人の子供がおり、息子の健作を演じる子役の渋谷そらじは2017年生まれの5歳、娘のかのを演じる鈴木凜子は2016年生まれの7歳だ。おそらく役柄もそれくらいの年齢という設定だろう。
母親を演じる成海は30歳で、子供の年齢から考えても実年齢と同じかさらに若い役柄のはず。しかしそうなると、上野戦争をきっかけに倉木と結婚したという設定に無理が生じるというのである。
作中でのえいが30歳なのであれば、上野戦争当時には16歳という計算になる。そんな年端のいかない娘が、負傷した彰義隊の隊員をかくまって、結婚に至るものだろうか?
「明治初期は今よりはるかに早婚で、女性は15~16歳からが適齢期だったもの。東日本ではさらに早婚の傾向が強く、14歳での結婚も珍しくありませんでした。一方で旧幕府軍の彰義隊には10代後半から20代の隊士が多かったそうです。そのため倉木とえいが共に十代で知り合って結婚し、作中の明治15年時点で30代前半の夫婦だったとして、当時の基準ではなんら不自然ではありません」(前出・週刊誌記者)
どうやらえいの年齢設定は決して考証ミスではなく、むしろ明治初期の世相をきっちりと反映したものだったらしい。そんな時代考証は髪型にも表れているという。
作中では現代風の髪型となっている万太郎らに対して、女性たちは日本髪を結い、服装も着物姿のまま。こちらに関しても“まがれいと”や“夜会巻”など西洋風の髪型が流行したのは明治18年(1885年)ごろからだという。どうやら「らんまん」では今後、女性の髪形が変わっていく様子を楽しむことができそうだ。