そのあでやかさに惚れ惚れしたのは同世代の女性だけではなかったようだ。
6月16日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第55回では、舞踏練習会の発足式が開催。アメリカ人のクララ先生からダンスを教わった寿恵子(浜辺美波)が、実業家の高藤(伊礼彼方)とペアを組み、華麗なダンスを披露した。その寿恵子に目を奪われる視聴者も多かったという。
ダンスを習い始めてから、ダンスを踊るのにふさわしい洋装を着こなすようになっていた寿恵子。ただでさえ美しい顔立ちが洋装に映え、全身から沸き立つ美しさは、寿恵子のことを恋敵とみなしていた大畑印刷所の一人娘・佳代(田村芽実)さえも魅了していた。
そんな寿恵子が今回、さらに魅力的に変化。髪型だけは昔風だったところから、発足式の本番では洋装に似合う下ろし髪へと変わっていたのである。
「後ろに大きなリボンを付けた髪型はおそらく、明治時代に流行した『マガレイト』でしょう。後ろ髪全体を三つ編みにし、それを折り曲げてリボンで留めるもの。なお名称の由来であるマーガレットの花言葉は『心に秘めた恋』であり、寿恵子が抱いている主人公・万太郎(神木隆之介)への想いが込められているのかもしれません」(女性誌ライター)
自分を妾にしようとしていた高藤の誘いを断り、クララ先生に「私好きな人がいるんです。だから行きます」と告げて、発足式の会場を後にした寿恵子。向かう先は万太郎の住む十徳長屋だ。
寿恵子に去られたばかりか、本妻の弥江(梅舟惟永)からも「みっともない!」となじられた高藤。その姿にほくそ笑む東京大学の田邊教授(要潤)は「やはりこの先、女子への教育は急務だと」の持論を口にしていた。
そんな田邊教授の言葉と、寿恵子の髪型は、実のところリンクしているという。
6月1日放送の第44回で田邊教授は、鹿鳴館の開館を控えるなか、今後は日本の婦人が社交界の花形となり、女子教育の機運も高まるとの持論を熱弁。政府高官から高等女学校の校長になればいいのではと薦められる場面があった。
「その際には忙しすぎると交わしていた田邊教授ですが、あらためて女子教育の重要性を口にした今、本当に校長になるかもしれません。一方で寿恵子は髪型を洋装に改め、しかも自らの恋心に従って高藤ではなく万太郎を選んでいました。そんな『女性の自立』を明確に描いたこの場面には、本作のモデルである牧野富太郎博士の伝記とは別の創作要素が存分に描かれていたわけです」(前出・女性誌ライター)
本作では牧野博士の生涯をただなぞるのではなく、寿恵子との出会いや馴れ初めを脚色することで、明治時代における女子教育を描こうとしているのではないだろうか。
女性の社会進出が進んだ明治時代の文明開化。舞踏会や妾騒動を絡めつつ、女子教育の始まりまで描く。そんな脚本の巧みさが今回、寿恵子のダンスや髪型に表れていたのかもしれない。