これも報道被害のひとつだと言えるのではないだろうか。
自宅で両親が亡くなっていたのが発見された事件を巡って6月28日、歌舞伎俳優の市川猿之助が警視庁に逮捕された。これで肩書きが「市川猿之助(本名:喜熨斗孝彦)容疑者」へと変わり、歌舞伎役者が容疑者として扱われるという異常事態が世間を揺るがせている。
この逮捕を受けて猿之助容疑者を巡る報道は再び過熱。カーテンやテントで完全に目隠しされた移送の様子を生中継するばかりか、いまや主不在となった東京・目黒の自宅付近から生中継するなど、近隣住民への報道被害も心配されるところだ。
そんな過熱報道に対して、新たな批判も勃発。それは報道が原因で、病気の治療に影響が及びかねない人たちからの切実な声だというのである。
「猿之助容疑者は、母親の自死をほう助した疑いで逮捕されました。母親は向精神薬中毒で亡くなったと報じられており、一部の報道では具体的な薬物の名称も明かすことに。さらには有効成分の含有量や、中毒になる量、そして致死量まで報じられたことにより、実際にそれらの薬物を使っている患者が大迷惑を被っているのです」(週刊誌記者)
猿之助容疑者が処方されていたとされる薬物「S」は、睡眠障害の薬として知られている。一度に処方できるのは30日分までに制限されているが、これには大量服用への対策という意味も含まれているだろう。
同薬の利用者は長期にわたって服用していることが多く、今後も30日ごとに通院して処方してもらう必要がある。だがその際に今回の事件が原因で、処方されづらくなるのではとの懸念が高まっているというのだ。
「それに加えて『S』を服用していること自体に、偏見の目が向けられる恐れも高まっています。本来は医学的に治療効果が認められている真っ当な薬なのですが、今回の事件をきっかけに『ヤバい薬』との根も葉もない噂が広がる恐れも否定できません。理解のない家族が服用の中止を求める可能性もあり、利用者には困惑が広がるばかりです」(前出・週刊誌記者)
すでにSNS上では同薬物の利用者から<こんな報道やめてくれ><テレビで致死量言うのはおかしい>といった批判の声が続出。自分が服用している薬がまるで犯罪の道具のように扱われることに、不満を抱くのも当然だろう。
一方では、子供も見ている時間の報道番組で、病院で処方される薬の致死量を報じることへの疑問も続出。「この薬で死ねますと言っているようなもの」との指摘はもっともだ。
利用者からの<薬を悪者にしないでくれ><これがないと眠れないのに…>という叫びは、報道番組の制作陣に伝わっているのか。あらためてテレビの影響力を問われているのではないだろうか。