この場面への反応が、都会人と地方住みを分けるのかもしれない。
8月16日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第117回では、北三陸鉄道(北鉄)で駅長を務める大吉(杉本哲太)が、タクシー運転手の正宗(尾身としのり)に猛反論する姿が描かれた。
正宗の運転するタクシーで東京観光させてもらった大吉は、嫉妬交じりに「同じ運転手でも格が違いすぎる」と慟哭。正宗が「それはだって電車とクルマは違いますから」と返すと、血相を変えた大吉は「電車じゃねえ!」と強くアピールしたのだった。
大吉は「上に電線走ってっか。走ってねえべ、電線!」と指摘。ディーゼルで走っていると説明したうえで、「だから電車じゃなく、汽車なのよ」と結論付けていたのである。
「都会の人は鉄道全般を『電車』と呼びがちですが、電車とは架線等から電気の供給を受けながら走る鉄道のことを指します。それに対して北鉄のような地方の鉄道は車体にディーゼルエンジンを積んでいる「気動車」がほとんどで、地方ではおもに『汽車』と呼んで区別しているのです」(地方出身のトラベルライター)
かつて汽車とは蒸気機関車のことを指していたが、現代では日本全国で気動車のことを指すことがほとんど。地方では日常的に「汽車に乗る」との表現を使っているものだ。
そういった地方民にとって電車とは、テレビで観る都市圏の通勤電車がイメージ。そのため一部の私鉄が運行しているような一両編成の電車を見ると、電車ではなく汽車だと思ってしまうという現象もあるという。
そんな大吉の言葉に視聴者からも<汽車、懐かしい><大吉さんの気持ちわかるなあ>といった共感の声が続出。決して鉄道オタクではなくても、電車と汽車の違いに敏感な人は日本全国に少なくないようだ。
一方で都市によっては「電車」が意味する乗り物に、例外があるという。その都市とは札幌や函館、岡山、高知、松山から長崎、鹿児島など全国に点在しているというのだが。
「路面電車が走っている地方都市には、路面電車を『電車』、JRなどの鉄道を『汽車』と呼び分ける文化があります。すなわち日常的に電車という言葉を使っているわけです。また地方都市では代表的な鉄道駅を単に『駅』と呼ぶことがあり、路面電車のある街で『電車に乗って駅に行く』という場合の“駅”は一般名詞ではなく、特定の駅を示しています」(前出・トラベルライター)
なお北鉄のモデルである三陸鉄道リアス線は、電化されていない第三セクターの鉄道としては最長の営業距離(163キロ)を誇っている。「あまちゃん」の地元はまさに「汽車王国」と呼ぶことができそうだ。