本放送を観ていた人も、今回が初見の人も、その日付には思わず身構えたようだ。
8月30日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第129回では、“太巻”こと荒巻太一がプロデュースする映画「潮騒のメモリー~母娘の島」の公開日が2011年3月5日に決定。その主題歌を誰が歌うのかで議論が交わされた。
ヒロインのアキ(能年玲奈)が、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)とのダブル主演で臨む同映画。太巻にとっても全10作品を製作する「太巻映画祭」のトップバッターを飾る大事な作品だ。その公開日を巡って、視聴者の間で緊張感が高まっているという。
「2011年3月5日と言えば、日本中の誰しもが忘れもしない東日本大震災のわずか6日前です。しかも本作の舞台である岩手県三陸地方は大きな被害を受けた場所。いよいよその日が近づいてきたのかと、観る側も身震いしたことでしょう」(テレビ誌ライター)
しかも作中では日付以外にも、震災を想起させる場面があった。緊急手術から復活し、ウニ丼を作れるまで回復していた夏ばっぱ(宮本信子)。周りの人々に支えられる様子を見た春子(小泉今日子)は、「遠くの不良娘より近くの他人」という人間関係を実感し、東京に戻ることを決心していた。
そんな春子は夏を買い物に連れ出すことに。夏が倒れて緊急入院したことを念頭に、いつどこにいても連絡が取れるようにと携帯電話を買い与えたのである。最初は「いらね」と言っていた夏だが、仲間が集うスナック梨明日では自分が漁協に連絡すると言い出し、得意げに携帯電話を取り出していた。
「春子が夏に携帯電話を持ってもらいたいのは娘として当然の思いでしょう。しかし震災が近づいている今、遠く離れた故郷に住む母親に携帯電話を持たせたことには、視聴者として意味を感じずにはいられません」(前出・テレビ誌ライター)
2013年当時の携帯電話は普及率が95%に達しており、この数字は2022年の96.2%と大差がない。普及率という観点ではほぼ飽和しており、もはや「持つ人は持つし、持たない人は持たない」という状況になっていた。
その時期に、自分の意思では携帯電話を購入しなかったであろう夏に、春子がこのタイミングで携帯電話を買い与えたことには、必然と偶然が同居していた。果たして「あまちゃん」では今後、震災がどのように描かれるのか。その結果を知っている本放送当時の視聴者も、まるで今回が初見かのようにドキドキしているのではないだろうか。