史実をなぞろうにも、今回ばかりは無理が生じていたようだ。
10月5日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第4回では、ヒロインの鈴子(澤井梨丘)が花咲音楽学校の入試に挑戦。歌や踊りは本人も納得の出来栄えだったが、残念ながら合格できず、涙を流して悔しがる姿が描かれた。
この描写は、本作のモデルとなっている「ブギの女王」こと笠置シヅ子の経歴をなぞったもの。笠置は宝塚音楽歌劇学校(現・宝塚音楽学校)を受験するも、背が低いうえに極度の瘦せ型だったことから、音楽学校の過酷な生活に耐えられないという学校側の判断で不合格になったという。
作中でも鈴子は、自分より歌や踊りが下手な子が受かっていると嘆きつつ「ワテがチビやからや…」と涙ぐんでいた。母親のツヤ(水川あさみ)に抱きしめられながら涙するシーンは今回のハイライトとなっていたが、この場面に<それは無理がある>と首を傾げる視聴者も少なくなかったのである。
「鈴子が自分をチビだと評するセリフに、違和感を抱いた視聴者も多かったことでしょう。少女時代の鈴子を演じる澤井梨丘は、所属事務所の公式サイトによると身長150センチ。これは決してチビと呼べるような数字ではないのです」(テレビ誌ライター)
鈴子の生まれ月が笠置シヅ子と同じ8月だとすれば、花咲音楽学校を受験した3月時点での年齢は12歳7カ月になる。現在の統計だと平均身長は152.4センチで、150センチの澤井は少し低めではあるものの、ほぼ平均の範疇にある。しかも昭和初期の子供は現在より小さかったので、澤井はむしろ背が高いほうになるかもしれない。
作中でも鈴子の身長は親友のタイ子(清水胡桃)とほぼ同じか、むしろ少しだけ高く見える。実際のところ、鈴子が「ワテがチビやからや…」とつぶやくまで、彼女のことを背が低いと思っていた視聴者などほとんどいなかったのではないか。
「問題は実際の身長だけではありません。鈴子がチビという設定にしたいのであれば、花咲音楽学校の受験シーンで彼女だけ明らかに小さく見えれば済む話。他の受験生に身長の高い子ばかりを起用すれば、相対的にチビ感を強調できたはずです」(前出・芸能ライター)
オーディションを主催する立場の朝ドラなら、この場面に出演する子役たちに「身長165センチ以上」といった条件を付けることもできただろう。しかし受験のシーンで鈴子が小さく見えることはなく、際立って背の高い受験生も見受けられかった。これは制作側の無策と言えるのではないだろうか。
ちなみに笠置シヅ子本人は身長150センチだったそうで、たしかに小柄な部類だろう。それに対して大人になった鈴子を演じるヒロインの趣里は身長158センチで、女性としては決して小さくない。どうやら本作の制作陣は、身長へのこだわりが驚くほど小さいのかもしれない。