その笑顔には、スズ子のみならず視聴者も心を奪われたことだろう。
1月10日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第69回では、終戦後の昭和20年11月に日帝劇場で公演が再開。まずは茨田りつ子(菊地凛子)が代表曲「別れのブルース」を歌い上げ、詰めかけた聴衆を感動させていた。
ステージ終了後、舞台袖にハケたりつ子に対し、次に歌うヒロインのスズ子(趣里)は「むちゃくちゃ良かったです」と称賛の声をかけていた。するとりつ子は「次はあなたの番。みんな待ってるわよ」と、笑顔で応えたのである。
「りつ子の表情に驚いた視聴者も多かったようです。ふだんからシニカルな態度のりつ子は公演でもスズ子に対しては乾いた態度を取りがち。ところが今回は自身のステージに手ごたえを感じたのか、それともスズ子への態度が変わったのか、慈愛に満ちた笑顔を見せてくれました。これが1カ月前の放送とは実に対照的な姿だったのです」(テレビ誌ライター)
約1カ月前の12月7日に放送された第49回では、昭和16年の開戦後にスズ子とりつ子が合同コンサートを開催。官憲が内容を監視する緊張した状況のなか、二人は精一杯の歌声を披露していた。
この時、自分のステージを終えたりつ子は、出番を待つスズ子にただ一言「お先」とだけ声をかけ、厳しい表情のまま去っていった。その様子を覚えている視聴者にとって今回の再開公演で見せたりつ子の笑顔は、実に象徴的だったのである。
「ステージ後というまったく同じシチュエーションにて、りつ子が見せた表情と態度の変化は、合同コンサートが再開公演の伏線だったと思わせてくれました。戦時中の制限は人々の心にも重しとしてのしかかり、りつ子やスズ子らの歌手は常にピリピリしていたもの。それが今回、りつ子もスズ子もお互いに笑顔を送り合い、自由に歌えることの素晴らしさを視聴者にも伝えてくれたのです」(前出・テレビ誌ライター)
表情が変わったのはりつ子だけではない。ステージ袖でりつ子を待ち受けていたスズ子も笑顔で出迎え、楽屋に戻るりつ子に一礼していた。彼女が飛び出していったのは、まばゆいライトで煌々と照らされたステージ。そのステージこそ「戦後」が与えた開放感や自由を象徴していたのかもしれない。