新鮮な食材を新鮮なうちに食べること。これ、究極の贅沢の1つですよね。これまでに日本のあちこちで飲み歩き旅行をしてきましたが、純粋に食べたものの味がおいしかった記憶って、やっぱり海辺で食べた魚介類だったりしますね。
例えば、僕は静岡県の清水が大好きで、何度か行ったことがあります。あの街、清水港があるので、魚のおいしさがそりゃあもう圧倒的なんですよね。港の近くの食堂で食べる刺身定食は言うまでもなく、そこらへんの海鮮丼チェーンのねぎとろ丼などを食べてみても、絶句した後、涙が勝手にこぼれだすほどの絶品。夜に何気なく入った小さな渋い大衆酒場のお通しが小鉢のまぐろで、それすらも人生観が変わるほどにおいしかったりするので、やっぱり土地の新鮮な食材が食べられるのって、とても幸せなことだと思います。
そう考えると、僕が住んでいる東京の街って、世界中から食材の集まるグルメ都市ではあるけれど、なるべく新鮮なものを食べたいと思ったら、それなりの金額を支払わなければいけない。しかも、その上限が天井知らず。食に関しては、実は恵まれてない方の都市なんじゃないかな。なんて、どこかに旅行に行くたびに感じてしまいます。
って、ふてくされてばかりでも仕方ないし…と考えていたら、1つだけ、自分がものすごく恵まれていると感じられる食材があることを思い出しました。それは、地物野菜。
僕は東京の中でも練馬区という場所に住んでいて、ここ、23区の中でも特に畑の多い地域なんですよね。家の近所にいくらでも畑があって、そしてたいていは野菜の「無人販売所」が併設されているんです。
当然、スーパーとは違い、日々並ぶ野菜が変わってゆくので、ちょうど目当てのものが手に入らないことも多いですが、そうやって季節を感じられることが逆に嬉しい。でっかいキャベツや白菜が1つ100円だったりと、ものすごくリーズナブルなのがまたありがたい。
今の時期なら、夏野菜が真っ盛りです。トマトやきゅうりならさっと冷やして、塩でもみそでもマヨネーズでも添えてやれば、それだけで大ごちそう。新鮮さが命で、「鍋にお湯をわかしてから採りにいけ」と言われるほどだと聞く枝豆も、この時期はよく朝採れのものが手に入ります。シンプルに塩ゆでにすると、ふだん食べているものとは味の濃さが段違いで、毎回、感動するんだよな〜。
夏の夕方、我が家の小さなベランダの縁台で、蟬の声を聞きながら、近所の畑で採れた野菜をつまみに1杯。これ、実はものすごく贅沢な時間ですよね。
それともう1つ。「収穫体験」など、子供たちのためのイベントを定期的に開催してくれる優しい農家さんもあるんです。 そんな中の1つで「とうもろこし迷路」という、その名のとおり、巨大なとうもろこし畑を迷路状に刈り取って遊ばせてくれるという夏の恒例イベントがありまして。今年も家族で行ってきました。
嬉しいのが、ゴールを探して畑の中を進みつつ、1人3本、好きなとうもろこしをもぎって持って帰れるんですよね。なるべく大きそうなのを狙って自分で採ったとうもろこしを、その日のうちに、農家さんのおすすめに従い、ただレンチンして食べる。その、もはや砂糖が練り込んであるんじゃないの? ってくらいの甘さ。僕はそこに粗塩をちょんちょんとつけつつビールのつまみにしましたが、あぁ、練馬区に住んでいて良かった…。と、心の底から感謝が湧いてくる瞬間でした。
ところで、とうもろこしといえば屋台の「焼きとうもろこし」も最高にいい酒のつまみですよね。そこで、ナオさんへの次回のテーマ「夏祭りと酒」でどうでしょうか?
パリッコ:酒場ライター。著書に「酒場っ子」「天国酒場」など多数。スズキナオ氏との酒飲みユニット「酒の穴」としても活動している。「缶チューハイとベビーカー」が絶賛発売中!