“顔と脳”は、お互いをコントロールします。あたかもゲームのコントローラーのように、顔で脳の活動をコントロールすることができるのです。
■“晴顔”の健康効果、医学的な検証
“晴顔”の代表として、“えがお”を例にして、医学的な検証のできている事実をご紹介しましょう。
一番顕著な効果は、「がんやウィルスに対する免疫力が増大する」というものです。がん細胞やウィルスを退治するナチュラルキラー細胞は、私たちが笑うことで強化・増大され、体全体の免疫力をアップさせます。漫才や喜劇で大いに笑った人のナチュラルキラー細胞は「笑う前」に比べ、その活性度が軒並み上昇。「その変化は、がん治療の免疫療法薬の上昇速度より、はるかに速かった」と報告されています。さらに“えがお”は脳に働きかけて「幸せホルモン」と呼ばれているエンドルフィンを分泌させ、「幸せ感」を増幅、あわせて痛みを軽減させます。その痛みを和らげる作用はモルヒネの数倍ともいわれています。
ドーパミン(快楽物質)の分泌も“えがお”によって促されます。ドーパミンは、何か嬉しいことや良いことが起きると脳内で分泌され、快感を引き起こすホルモンで、これが出ると私たちは意欲的になり、もっとうれしいこと、楽しいことをしたくなります。人間は、この快楽物質で、「前向きの動機づけ」がなされます。これが、「“夢”や“幸せ”の実現の起動力」になるのです。
さらに“えがお”は「癒やしホルモン」と呼ばれているセロトニンをも分泌させ、心が穏やかな状態になり、ストレスから解放され、リラックス効果が得られるという報告もあります。
しかも“作り”の“えがお”、つまり「作り笑い」でもOKです。「おかしくなくても」「わざとでも」「いやでも」「無理してでも」、笑えば全ての健康促進効果が増大する事が医学的に確認されています。現在放送中のNHK「あしたが変わるトリセツショー」でも、様々な病気の原因となるストレスの解消法として、取り上げられています。もちろん“えがお”だけでなく、その場に応じた“晴顔”でありさえすれば、“どんな顔”でも結構。当然、「作り“晴顔”」でもOKです。
■“雨顔”が呼び起こす悪影響
今度は“雨顔”について。恐怖・不安・悲しみ・怒り・憎しみ・悩みなどの“雨顔”に象徴されるストレスは、「脳にとても悪い影響を与える」ということが、多くの実験でわかっています。“雨顔”をして生きていると、“体と心の健康”がおかされるのです。“雨顔”は脳を通じて、「ストレスホルモン」ともよばれているコルチゾールなど、出すぎると体に有害なホルモンや化学物質を過剰に分泌させ、脈拍、血圧、血糖値に悪影響を与えます。コルチゾールの分泌過多は、脳の海馬(記憶にかかわる部分)を委縮させることもわかっています。
胃酸やアドレナリン(ストレス反応ホルモン)などの分泌のしかたも変わってしまいます。アドレナリンの分泌が過剰になると、攻撃的で怒りっぽくなり、イライラしてキレやすくなります。このようにストレスホルモンの過剰な分泌は、体に有害な生理的変化をもたらして、結果、心臓病・骨粗しょう症・記憶喪失・免疫不全・糖尿病などといった悪影響を体に及ぼすのです。
中でも最悪なのは、“雨顔”が、免疫組織の機能を低下させ、がんやエイズ、コロナなどの感染症や慢性病と闘う能力を衰えさせてしまうことです。何だか読んでいるだけでストレスがたまってきそうですね。
「“晴顔”は、“幸運”や“夢”までも作り出し、よりよい“人生”をも作り出す」のです。その具体的なプロセスもわかっています。これからも、この連載で詳しくお伝えしたいと思っています。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」