トム・クルーズとの結婚・離婚も経験したが、30年以上、ハリウッドのトップに君臨する女優、ニコール・キッドマン。アラ還でも、刺激的な題材に挑み続け、本作も例外ではない。熟美女CEO(最高経営責任者)が、年下の部下とのパワーゲームに屈して、思うがままに仕込まれ、操られてゆく妖艶ストーリーだ。相手役は「アイアンクロー」(2023年)のハリス・ディキンソン。女性のハリナ・ラインが、監督、脚本を手がけたことも興味深い。
ニューヨークで起業し、CEOとして大成功を収めたロミー(キッドマン)は、舞台演出家の優しい夫(アントニオ・バンデラス)と2人の娘に恵まれ、人も羨む暮らしを送っていた。ある日、出社途中で窮地を救ってくれた若い男性・サミュエル(ハリス・ディキンソン)と出会う。偶然にも彼は、ロミーの会社のインターンだった。その日から彼の存在が気になり始めて…。
有能で知的な美女が、男の悪魔的な罠に堕ちてゆく様は、往年の成人映画や艶系ビデオにありそうな内容だが、天下のニコール・キッドマンが演じるとなると別格である。両者のマウントの取り合いがスリリングだ。しかし、ストーリーの後半ではすっかり“牝犬”になり下がり、屈辱が快感に変わるヒロインの様は衝撃的である。
監督は「危険な情事」(1987年)をはじめ、往年の艶っぽさのあるスリラー映画のファンだそうだ。男性目線ではなく、女性の視点で“男らしさ、女らしさ”を問い「性的解放」を描くとこうなるのか、と得心した。登場人物が重層的で、皮肉なユーモアも味わえて何よりだ。
この春の洋画で最も挑発的な注目作であり、熟美女パツキン=キッドマンに惚れ直した映画である!
(3月28日=金=よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開、配給 ハピネットファントム・スタジオ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。