元NHKアナ・中村克洋「人生を動かす“顔”パワー」講座/「“説得”コミュニケーション」における活用① 相手に「ウン」と言わせる「2大原理」とは
私が教鞭をとっていた大学での研究テーマは「“表情”コミュニケーション」と「“説得”コミュニケーション」でした。このうち「“表情(顔)”コミュニケーション」は、この連載でほぼ全容をお伝えしてきました。一方の“説得”コミュニケーションは、今、とても注目されているコミュニケーションの研究分野で、いわば相手を絶対に「ウン」と言わせる究極技法の研究です。これに熟達すれば、商売、ビジネス、恋愛、人間関係すべてがうまくいくという“夢の説得技法”です。そのためのテクニック、「自己説得」という最強の技法も生み出されています。
この“説得”最新技法は、「“顔”コミュニケーション」同様、人生をすばらしいものに変える強力アイテムなのですが、やはり、私が書いた教科書でも1冊分(授業22時間分)の量があるため、ここでは、この連載のテーマである“顔”に関係ある部分だけ、ごくごくエキスの部分をお伝えしたいと思います。
私は「説得の2大原理」というものを設定しています。これさえ頭に入れておけば、「説得は難しい」と思い悩むことはありません。ご紹介しましょう。私たちがよくやっている説得技法で、かなりうまく説得できる方法があります。例えば、Aさんに自治会長をお願いする場合。お願いだけでは、なかなかOKはもらえないもの。そこで、「Aさん、町内会長を引き受けてもらえば、月々100万円のお手当てを差し上げます!!」と言えばどうでしょうか?
もちろん、こんなことは現実ではありえませんが、ま、極端な例でご紹介しました。要するに「プレゼント」です。“あげる”です。といっても、おカネばかりではありません。ほめて“あげる”、肩たたきをして“あげる”、ほほ笑んで“あげる”…。相手の心に「ありがたいなあ」「悪いなあ」という気持ち(心の負い目)が湧き上がる“あげる”であれば何でもいい。こういうものはいっぱいあります。これが“説得”の2大原理の一つ「返報性の原理」です。相手に「こんなことして“もらって”、ありがたいなあ。私も何かして“あげる”ことはないだろうか?」という気持ち(返報の心理)をひき起こせばいいのです。
“説得”の2大原理のもう一つは「一貫性の原理」です。これは、自分の言動に対して「私はウソつきじゃない」あるいは「ウソつきになりたくない」という心理です。具体的には、「言っちゃったしなあ」という気持ちを起こさせることで説得が成り立つケースです。
この2大原理を、デパ地下の試食コーナーの例で見てみましょう。あなたはそのコーナーで、ソーセージを1本試食して、「うまい、ワインに合うね」などと言ったとします。その場合、買わずに立ち去ることはなかなか難しい。「ごちそうして“もらった”(=返報性の原理)」「うまいと“言っちゃった”(=一貫性の原理)」という、行為に対しての2大原理が、あなたの心理に強く働くのです。
この「返報性の原理」と「一貫性の原理」という古典的な説得技法をもとにして、これまでたくさんの技法が考えられてきました。詳述はしませんが、それはそれで、効果が上がるものではあり続けてきました。しかし、技法はどこまで行っても技法ですから、やや“相手をだました感”が残ります。そこで…次回は、ウィンウィン(どっちも満足)の説得「自己説得」です。“インタビュー顔”、“リポート顔”、“傾聴顔”など、説得に威力を発揮する様々な“顔”が登場します。その説得パワーに迫ります。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」
