発表する作品が続々とベストセラーに輝く作家・池井戸潤さん。まもなくドラマ放映もスタートする新作『アキラとあきら』では、青年たちの成長物語で新境地を開きました。清々しく痛快な作品中にもチラリと覗かせる、作家としての「ヒロイン像」とは? 女性必読のインタビュー、後編です!
──銀行や中小企業、工場が舞台になるなど、どちらかというと作品には男性の物語のイメージが強いですが、女性を書くときに気をつけていらっしゃるのは、どんなことですか。
池井戸 「内面を書かない」ことですね。
──え?
池井戸 なぜかというと、書けないから(笑)。だって、50過ぎのオヤジが若い女性の内面を書くなんて、気持ち悪いでしょう? 笑っちゃいますよ。
──でも、花咲舞(小説『不祥事』などのヒロイン。15年に杏主演でドラマ化)とか、書かれているじゃないですか。
池井戸 あの作品でも、女性としての内面は書いてないですから。あれは、男が主人公でも成り立つ話ですよ。仕事に関しての悩みというのは、男も女もあんまり関係ないんです。世代を超えても、なんとなくわかりやすいし、共有しやすい。でも、そのほかの、たとえば家庭のこととか恋愛とかで、20代の女性が悩んでいる様子なんて、とてもじゃないけど僕には書けない。無理です、無理。
──そうですか。意外でした。
池井戸 もちろん、表面的には書けていると思うんですが、苦手だというか……うーん、どうも、リアルに書けているかどうかがわからないんですよ。中途半端に書くと、「こんな女、いないよ」と突っ込まれそうで。だから、女性ならではのナントカとか、そういうものが読みたい方は、別の作家の小説を読んでください(笑)。
──でも、『アキラとあきら』に登場する瑛の幼馴染み・北村亜衣(ドラマでは田中麗奈・演)も、階堂彬の同僚の水島カンナ(同・瀧本美織)も、気持ちのいい、サッパリした女子です。どういう女性を「魅力的だな」と思って書いておられますか。
池井戸 そうだなぁ、さっぱりした人とか、理知的な人とか……。でも、お金持ちのほうのアキラのお母さんみたいな、ちょっとヒステリックな人も、よく書きますね。
──夢あり、仕事あり、ほのかな恋あり。若い読者も勇気づけられる物語だと思います。
池井戸 今回は子ども時代を多く書いたこともあって、僕のいつもの作品より、若い人に読まれる確率が高いかもしれませんね。銀行に就職したい人の参考になるかって? それはどうかなぁ(笑)。まあ、若い人は、自由に、好きなように生きていってもらえばいいと思いますよ。それだけですね。
◆プロフィール 池井戸 潤(いけいど じゅん)1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2011年、『下町ロケット』で直木賞を受賞。代表作に「半沢直樹」シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』)、『空飛ぶタイヤ』『鉄の骨』『民王』『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット2 ガウディ計画』『陸王』がある。『陸王』は10月からTBS系で連続ドラマ化、映画『空飛ぶタイヤ』が来年公開予定。
『アキラとあきら』
池井戸潤
徳間文庫 1000円(税別)
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