14年のスパンはやはり大きかったようだ。
6月5日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第55回では、ミス北鉄のユイ(橋本愛)が、琥珀職人見習いの水口(松田龍平)に自作の名刺を手渡す場面が描かれた。その際にユイが口にした単語に、2009年という時代が表れていたという。
高校を卒業したら上京し、アイドルになることを夢見ているユイ。彼女がヒロインのアキ(能年玲奈)と一緒に即席ユニット「潮騒のメモリーズ」としてパフォーマンスした際に、水口は二人の写真やビデオを撮影していた。
その水口をスカウトマンではないかと怪しんでいるユイ。水口は親戚の子に見せるためと下手な言い訳していたが、ここでユイは詰め寄るのではなく「これメアドと、最近更新してないけどブログです」と告げながら、自分の名刺を渡したのだった。
「メアドは『happy-ui.ad』となっており、本名の足立ユイにちなんだものでしょう。1990年代には女子高生の間で自分の名刺を作ることがプチブームになったこともあり、自宅にパソコンのあるユイなら名刺も自分で作れたはず。それゆえ彼女が名刺を差し出したこと自体に驚きはないものの、名刺の内容には作中の2009年が色濃く反映されていました」(アイドル誌ライター)
2009年当時、AKB48はすでに活動していたが、14thシングル「RIVER」で初のオリコン1位を獲得するのは同年9月のこと。作中の4月時点ではまだ、全国区とは言えない状況だった。
翌年にはアイドル夏フェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」(TIF)がスタートするものの、2009年はまだアイドル戦国時代前夜といった感じだろうか。地下アイドルはほとんど存在しておらず、多くのアイドルグループは既存の芸能事務所が運営していたものだ。
このようにアイドル業界の様子が現在とは大きく異なっていた2009年当時、令和のアイドルにとって必須のアイテムも、まだほとんど普及していなかったという。それはユイの名刺にも表れていたというのだ。
「ユイの名刺にはツイッターのアカウントが記載されていませんでした。アメリカで始まったツイッターが日本で公式にサービスをスタートしたのは2008年4月のこと。当初は『ミニブログ』と呼ばれていたように、ブログの簡易版という捉え方をされており、コミュニケーションツールとの側面はほとんど注目されていませんでした。それゆえツイッターを運用しているアイドルもほぼ皆無で、ユイもブログを運用していたわけです」(前出・アイドル誌ライター)
日本のアイドルがツイッターに進出し始めたのは2010年になってから。「ももいろクローバーZ」や「アイドリング!!!」などが一斉にアカウントを開設し、ファンもツイッターから情報を入手するようになっていった。ブログはその後も残り続けているが、宣伝や告知の手段としてはツイッターがメインのSNSになったのである。
あまちゃんが放送された2013年時点ではすでに、アイドル界でもツイッターは当たり前のツールとなっていた。それゆえ放送当時も<ツイッターじゃないんだ>との感想を抱いたアイドル好きの視聴者は多かったはずだ。
そこからさらに10年の時が経ち、いまやツイッターを運用していないアイドルはほとんどいないも同然。むしろブログを開設しているほうが少数派となっている。ユイも現代の女子高生だったらツイッターはもちろん、インスタグラムに映える画像をたくさんアップして、その美貌を日本中で発見されていたに違いないだろう。
そう考えるとアイドル志望のユイは、生まれてくるのが少しばかり早すぎたのかもしれない。