家出するくらいなら、在学中からアイドル活動を始めていたらよかったのに…。そう思った視聴者も多かったようだ。
6月12日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第61回では、東京で開催されるオーディションを目的にユイ(橋本愛)が家出を画策。大手芸能事務所ハートフルの水口(松田龍平)に車で連れ出してもらう計画だったが、あえなく発覚する様子が描かれた。
そのユイは岩手・北三陸市の高校3年生。すでにミス北鉄としてローカルアイドルのような活動を行っており、地元のテレビ局・岩手こっちゃこいテレビでは夕方の情報番組「5時だべ! わんこチャンネル」に自分のコーナーを持つ人気者だ。
その人気と美貌をもってすれば、高校卒業を待たずともアイドル活動ができそうなもの。しかし作中の2009年当時には、それができない事情があったという。
「理由の一つは時代と関係ないもので、ユイが県会議員の娘だから。高校生の娘を単身で上京させるのは、地元に密着した県会議員としては認められないということです。令和の現在でも同じような理由により、坂道グループなどのオーディションを高校卒業まで受けさせてもらえないケースは珍しくありません」(芸能関係者)
ただユイはすでに地元局にミス北鉄として出演しており、岩手でご当地アイドル活動を行うことは可能なはず。実際、北鉄のお座敷列車にてヒロインのアキ(能年玲奈)と一緒に即席ユニットの「潮騒のメモリーズ」として、パフォーマンスを披露していたこともある。
しかし地元でのアイドル活動は、2009年というわずか14年前であっても、様々な理由から実現が難しかったという。見方を変えれば令和の現在ならユイはとっくにアイドルとして活躍しているはずだというのである。
「それはユイが住んでいる場所の問題です。自宅の最寄り駅である畑野駅は、三陸鉄道の田野畑駅がモデル。ここから盛岡駅までは、宮古経由で片道3時間以上もかかります。これでは午前中の授業だけで高校を早退し、夕方5時からの番組に出演した後は、自宅にトンボ帰りするのがやっと。とても盛岡でアイドル活動している時間の余裕はないのです」(前出・芸能関係者)
盛岡の高校に通うにしても、父親の立場を考えれば盛岡で一人暮らしをさせるわけにもいかず、残る可能性は寮のある私立女子高に通うことくらい。しかし私立女子高では芸能活動が禁止されており、どのみちユイが岩手でご当地アイドルをすること自体が不可能なのである。
もちろんミス北鉄の肩書きを活かして、北三陸でアイドル活動することはできるだろう。しかしその場合、ユイが思い描くような人気を得ることはまず不可能だ。
地元の人口が少なすぎるうえ、ご当地アイドルを目当てに北三陸まで足を運ぶファンの数も限られている。実際、北鉄が開催したお座敷列車もチケットは230枚を用意したのみ。あれほど大掛かりなイベントにもかかわらず、小規模なホールがやっといっぱいになる程度の集客しかできなかったのである。
「しかも2009年時点ではスマホもほとんど普及しておらず、アイドルがツイッターで発信する文化もありませんでした。令和の現在は日本中のどこかで活動していてもツイッターで存在を示すことができ、それこそオンラインライブや特典会も開催できるので、地方在住の不利は少なくなっています。もしユイが令和の高校生だったら、北三陸在住のまま、その美貌で人気を獲得できていたのではないでしょうか」(前出・芸能関係者)
そう考えると、令和の時代に「あまちゃん」をそのまま再現するのはほぼ不可能だということになる。現代の世相を描いているようで、アイドル文化的にはひと昔もふた昔も前の物語になっていたようだ。