9月1日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第110回では、台湾の現地調査団に派遣された主人公の万太郎(神木隆之介)が、現地の人々に命を救われる姿が描かれた。その場面の描写に疑問を抱く視聴者も少なくなかったという。
前回、万太郎は現地案内人の陳志明(朝井大智)に背負われて小屋に運び込まれることに。息も絶え絶えの万太郎をよそに、志明は万太郎の荷物を漁っていた。彼の狙いは万太郎が携行しているであろうピストルだったが、万太郎は軍の命令を無視してピストルを購入しておらず、志明は驚くことに。
そこで志明が見つけたのは、万太郎が自ら著した「日本植物志図譜」だった。おそらく志明は万太郎が日本軍の差し向けたスパイかなにかと勘違いしていたようで、実は正真正銘の植物学者であることに驚いていたようだ。
「日本に戻ってきた万太郎は長屋の人たちに、『わしは台湾の人らとこの植物に、命を救うてもろうたがじゃ』と説明。どうやら万太郎が愛玉子(オーギョーチ)と名付けた植物の種から作った寒天は、良き薬となっていたようです」(テレビ誌ライター)
植物学一筋の生きざまが、万太郎の命を救ったのだろう。だがこの場面に視聴者からは疑問の声もあがっていたという。ここまで描かれてきた万太郎の性格を鑑みれば、今回の描写はいかにも不自然だというのである。
万太郎は台湾での調査研究に先立ち、現地の台湾語を学習。台湾総督府や軍からは、日本統治下にある台湾では共通語の日本語で話すように厳命されていたが、なにより現地の植物を解き明かしたい万太郎は台湾語が必要だと考えていた。これはまさに万太郎らしい判断だろう。
「そんな万太郎なら現地の人たちに、自ら進んで日本植物志図譜を見せていたはず。日本と台湾の植生の違いを示すための資料として持ち込んだのですから、行く先々で『こんな植物は見たことがあるかね』と見せていたはずです。ところが志明は荷物のなかに日本植物志図譜を見つけて驚いていましたから、その場面まで万太郎がしまい込んでいたのは確実。これは万太郎の性格とは矛盾した振る舞いでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
ここまで描かれてきた万太郎の人物像は、社会常識に欠け、生活能力がない一方で、裏表のない明るい人物で、植物学に懸ける情熱は人一倍というもの。だからこそ軍から禁じられた台湾語も、志明に披露できたわけだ。
そんな万太郎が日本植物志図譜をしまい込み続けるのはストーリー的にも矛盾と言わざるを得ないだろう。現地の人たちに助けられたという美談へとつなげるために、少々脚本に無理が生じていたのかもしれない。