ほかの大学に転職すればいいのに…。そう思った視聴者も多かったことだろう。
9月6日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第113話では、帝国大学の植物学教室で助手を務める画工の野宮(亀田佳明)が、辞表を提出するに至った経緯を説明。研究仲間の波多野(前原滉)や主人公の万太郎(神木隆之介)が一緒に泣き崩れる様子が描かれた。
様々なあつれきにより、辞表を提出した野宮。今後を訊ねられると、どこかの学校でまだ図画の教師をやるかもしれないという。しかし野宮はれっきとした帝国大学の助手。そんな立派な肩書きがあれば、転職など簡単できるのではないのだろうか?
「現在なら、東京大学の助教が自主的に退職した場合、他の大学に採用されそうなもの。それこそ准教授などで迎えられる可能性もあるでしょう。しかし作中の明治29年(1896年)当時にはそもそも、転職先となる大学自体がほとんど存在していなかったのです」(週刊誌記者)
なにしろ当時の日本に存在していた大学は東京帝国大学と京都帝国大学の2校のみ。北大や阪大といった他の帝大はまだ成立しておらず、早稲田や慶應などの私立大学もまだ専門学校だった時代なのである。
しかし大学助手としての転職は無理でも、元帝大助手を受け入れる専門学校はなかったのだろうか。
「野宮のような植物学の研究者は、帝国大学や博物館以外に行き先がなかったのです。北大の前身である札幌農学校のように実学の面で植物を研究するところはありましたが、植物の真理に迫る純粋な学問としての植物学はまだ、ほとんど成立していませんでした」(前出・週刊誌記者)
波多野は農科大学の教授に就任することが決まっていた。だが農科大学では文字通り、農業の研究が中心。新種の発見といった「植物の真理」を巡る研究はどうしても後回しになる。そもそも教授なら部下の採用権もあるはずだが、波多野の力をもってしても、農業の専門家ではない野宮を採用することはできなかったのだろう。
これで野宮の出番も終わりになるのか。「らんまん」の視聴者も一抹の寂しさを感じているのではないだろうか。