9月29日で最終回を迎えるNHK朝ドラ「らんまん」。心を揺さぶるストーリーもさることながら、次回の朝ドラ「ブギウギ」と同様、近・現代の日本を舞台にしているだけに、今に通じる地名が登場し、物語当時との比較などを楽しむおもしろさもあった。そんなディテールを深堀りしたのが、9月8日配信の記事である。
9月7日、NHK朝ドラ「らんまん」の第114話が放送され、主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の妻・寿恵子(浜辺美波)が、叔母のみえ(宮澤エマ)から買って商売するように勧められた物件を見に渋谷を訪れるシーンが描かれた。
「寿恵子が人力車を降りた場所は道玄坂下、現在の『渋東シネタワー』の辺りです。するとカメラは、寿恵子のいる場所を上から俯瞰するようなアングルになってどんどん引いていき、テレビ画面には、上空から見た当時の渋谷の様子が地図のように映し出されました」(テレビ誌ライター)
それを見ると、すでに渋谷駅は日本鉄道(当時)の駅がおかれ、現在は明治通りになっている渋谷川沿いに線路も描かれているのがわかる。
「東から宮益坂、西へは道玄坂が延び、現在の109から東急文化村へと通じる道も当時からあったことがわかります。二つの坂道沿いには町屋も多く発展している様子がわかりますが、ちょっと外れると田園地帯で農家が点在しているだけ。文化村より奥には果樹園が広がっているようです」(前出・テレビ誌ライター)
二つの坂は、大山街道の一部として古くから山岳信仰の旅人が行き交っていたとナレーションの説明があったが、そもそも「大山街道」とは?
「東京・赤坂と神奈川県の大山を結ぶ街道で、現在の国道246号沿いにあたります。大山は山岳信仰(大山信仰)の地として、古墳時代や縄文時代末期にはすでに人々に崇められていたと言われています」(歴史雑誌ライター)
寿恵子が歩を進めた先、恐らく現在の円山町近辺は寂れた家が建ち並び、ドブさらいもされておらず、ヤブ蚊が飛び交っている有り様。寿恵子が見に来た物件の近くで出会った酔っぱらいの荒谷佐太郎(芹澤興人)は、物件の持ち主は昨年引っ越したと告げ、その持ち主だった老婆について「昔は鍋島様のところで奥勤めしてたらしい」と語ったのだ。
「鍋島様とは、旧佐賀藩の鍋島家のこと。現在の松濤あたりは江戸時代には紀伊徳川家の下屋敷があったのですが、明治に入り鍋島家に譲渡されます。鍋島家はここに狭山茶の茶園を開くのですが、関東大震災後には分譲地として売られ、高級住宅地へと発展していきます。鍋島の名前は現在も『松濤鍋島公園』として残っていますが、園内に大きな池があるこの公園は隠れたデートスポット。渋谷で飲んだカップルがこの静かな公園で愛を語り合い、円山町のホテル街へと消えていくのです(笑)」(前出・歴史雑誌ライター)
その円山町一帯は、荒谷をして「他に行くところもなくて落ちてきた」と言わしめた、寂れきった場所。この地が花街として発展していくことに寿恵子はどう関わっていくのか、見ものである。
(石見剣)