なぜこんな単純ミスが発生したのか、驚く視聴者もいたようだ。
12月19日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第57回では、村山興業の御曹司である愛助(水上恒司)がヒロインのスズ子(趣里)と交際することを決意。「ボクと交際してください!」と告白し、スズ子が受け入れるハッピーエンドで幕を閉じていた。
そんな愛助とスズ子の交際に大反対しているのが、村山興業東京支社長の坂口(黒田有)。東京支社に愛助を呼び出し、スズ子と別れたことを確認しようとしていたが、逆に交際を決意したと打ち明けられビックリ仰天していた。その場面に問題があったというのである。
「東京支社の立派な建物は、昭和2年に完成した神戸税関の二代目庁舎で撮影されたもの。関西の視聴者を中心に『あの建物か!』と感心する声があがるなか、そこに飾られた村山興業のロゴが明らかにおかしなものになっていたのです」(芸能ライター)
村山興業のロゴ(社章)は吉本興業が昭和37年まで使っていた社章をモチーフとしており、吉花菱紋を模した形が特徴的。社章の内側には「村山」の社名があしらわれており、東京支社では社章の下に「村山興業」の社名が大きく表示されている。
神戸税関の庁舎もあいまって、その威容は村山興業がいかに大きな会社なのかを雄弁に物語っていた。ところがその社章や社名に致命的な時代考証ミスが露わになっていたのである。
「作中の社章や社名の看板はいずれも、現代と同様に左から右に文字が並んでいました。しかし本作の時代設定は昭和18年なのですから、本来なら「山村」や「業興山村」など、右から左に読む形でないとおかしいのです。日本で横書きが左からになったのは戦後のことであり、昭和18年時点で左から社名を書くことなどあり得ませんでした」(前出・芸能ライター)
吉本興業の社史を見れば、戦前は「花月」が「月花」などと右から書かれていたことが確認できる。ただし英文だけは左から書いていたので、「月花」と「KAGETSU」という表記が入り混じっている状況だった。
ともあれ日本語の社名を左から書くことなどありえなかったことは明らか。その点でとんでもない時代考証ミスなのだが、作中では店の看板やレコードのジャケットなどはちゃんと右から書かれている。そのなかでなぜ「村山興業」だけ、こんな単純ミスを犯してしまったのだろうか?
「作中の時代が戦後に移り変わった後も、東京支社の建物が登場するシーンがあるのかもしれません。そうであれば、そのシーンでは左書きになりますからね」(前出・芸能ライター)
見方を変えれば、この社名表記くらいにしか時代考証ミスが見つからない「ブギウギ」。最近の朝ドラではなにかと考証ミスが話題になっていたことを考えると、本作の制作陣はかなり綿密に戦前や戦中の時代を描いているようだ。