12月20日にNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の第58回が放送。ヒロインのスズ子(趣里)が恋人となった大学生の愛助(水上恒司)宛てに、熱い恋文(ラブレター)をしたためる場面が話題となった。
10日間の巡業中も愛助のことで頭がいっぱいのスズ子は、宿で恋文を書くことに。最後は「あなたのスズ子」という言葉で締めていた。これは第12週のタイトルにもなっており、視聴者からは<ピュアな恋だ><愛の力はすごい!>などと、タイトルを回収した場面は大きな反響を呼んでいたようだ。
一方で二人を別れさせたい村山興業の東京支社長・坂口(黒田有)は、スズ子楽団のマネージャー五木(村上新悟)に手切れ金を握らせることに。坂口は以前にもスズ子に手切れ金を渡そうとしていたが、今度は別の角度から攻める算段のようだ。そんな卑怯な坂口に憤る視聴者もいるなか、一方ではこのシーンに疑問を抱く向きもあるという。
「スズ子のモデルである笠置シヅ子が吉本興業の御曹司である穎右氏と交際していたことは史実であり、吉本側が交際に反対していたこともまた事実。ただ二人の交際を吉本側が知ったのは戦後のことでした。それゆえ坂口が戦時中に二人を別れさせようとしていたのはフェイクであり、楽団のマネージャーに手切れ金を握らせたようなこともなかったのです」(芸能ライター)
この「ブギウギ」ではわりと笠置シヅ子の生涯を忠実になぞっており、梅丸少女歌劇団から東京の梅丸楽劇団に移籍したり、自分の楽団を結成したエピソードなども史実に沿っている。
史実と大きく異なる点としては、作中では父親の梅吉(柳葉敏郎)がすでに香川の実家に戻っているところが挙げられる。実際には昭和20年に笠置シヅ子が父親と同居していた下宿が空襲で焼失したことから、父親が香川に疎開していた。もっともこの点は、スズ子と愛助の交際を描く際に父親の存在が余計なノイズにならないようにするための演出だと思えば、納得もいくところだろう。
それに対してスズ子と愛助の交際に戦時中から村山興業が反対している描写は、史実との違いが大きすぎるのは否めないところ。手切れ金という創作要素まで出てくるあたり、無理やりエピソードをひねり出している感すらある。この不自然さは一体どうしたことなのだろうか?
「その理由として、話が展開するスピードとの兼ね合いが考えられそう。というのも戦局の悪化で芸能活動が制限されていた戦時中は、笠置シヅ子自身が『戦争中の5年間のブランクはアテの地獄でした』と語っていたように、暗黒時代だったからです。この時期を史実に忠実に描いてしまうと、時の流れが速すぎてしまい、物語の進行上、バランスが悪くなってしまうことでしょう。そのため無理やりにでも、この時期の描写を引き延ばしたいのではないでしょうか」(前出・芸能ライター)
第58回では地方巡業中のスズ子に官憲が目を付け、派手な化粧を咎める場面があった。だがその描写は戦争が始まる前からすでに何度も繰り返されており、視聴者としてもおなかいっぱいだろう。もし史実に忠実に描こうとすれば、そんなスズ子と官憲のやり取りを何度も見せられることになりかねない。
それよりも視聴者が喜びそうな色恋を描くほうが、物語も華やかになるというもの。この後、さらに戦局が悪化して二人は焼け出されたりするはずだが、悲惨な描写ばかりでは観る側も気が滅入るというものだ。
それゆえ制作側はあえて史実を脚色することで、物語のエンターテイメント性を高めようとしているのではないだろうか。あくまで視聴者のほうを向いた脚色であれば、史実にこだわることなくスズ子と愛助の恋愛模様を楽しむのが吉なのかもしれない。