せっかくの活躍も、この展開では埋もれてしまいそうだ。
12月28日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第64回では、ヒロインのスズ子(趣里)と恋人の愛助(水上恒司)が空襲警報で防空壕に避難。赤ん坊が泣いたことで雰囲気が悪くなるなか、スズ子が「アイレ可愛や」を歌ったことで場が和む様子が描かれた。
富山での慰問公演を打診されるも、愛助と離れたくないと断っていたスズ子。だが防空壕で歌を披露したことで多くの人から感謝され、愛助からも歌の力を称賛されたことで、思いを改めることとなった。
そんなスズ子の姿に<泣ける!>などと好意的な声があがった一方で、視聴者のあいだでは否定的な反応も見え隠れしているというのである。
「物語が戦争に突入し、スズ子の歌唱シーンも減ったことにより、本作を華やかに彩ってきたエンターテイメント性がぐっと減っています。それでいて戦時中の描写が思いのほか長くなり、視聴者からは《年末年始に暗い話が続くのか…》という声もあがることに。しかも本編終了後の次週予告では、来年も戦時中の話が続くことが示され、戦争が終わるまでは離脱したいという視聴者も出始めている有様です」(テレビ誌ライター)
本作はブギの女王こと笠置シヅ子の生涯をモデルにした作品。多少は脚色されているものの、基本的には史実をベースとしている。
たとえば笠置は東京・三軒茶屋の下宿を空襲で焼け出され、吉本興業が用意した荻窪の邸宅に引っ越していた。それに対して作中では村山興業が三鷹に家を用意し、スズ子は自分の意思で下宿を出ている。
このあたりの演出は、スズ子と愛助の恋物語をよりドラマチックに描くためだろう。それ自体はドラマとしてありがちの展開だが、恋物語に焦点を当てるがために、時の流れが不自然になっている点は否めないというのだ。
「笠置は自伝にて、音楽活動が制限された戦前戦中の5年間は暗黒時代だと語っています。その時期に恋人と出会ったことで個人としては幸せに暮らしてはいたものの、史実上はさほどエピソードがない時期。それを無理やり膨らませているため、どうしても戦時中が長く続くことになり、物語自体を暗い空気が覆ってしまっているのです」(前出・テレビ誌ライター)
笠置自身は戦後、恋人の実家である吉本興業からも交際を認められたことで幸せな時間を過ごしていた。本作でも今後、そこが描かれるはずだが、前置きとなる戦時中がさすがに長すぎるのではないだろうか。
「制作側としては、戦争中にも歌の力で人々に希望を与えたスズ子をポジティブに描く狙いがありそうです。しかし観る側にとっては舞台装置となる戦争の暗さばかりが気になってしまい、ドラマを観る楽しさが減っていることは否めません」(前出・テレビ誌ライター)
果たして年が明けてから「ブギウギ」らしい楽しい展開は続くのか。視聴者も物語が明るくなることを願うばかりだろう。