史実を離れるのは物語を盛り上げるための工夫のはず。しかし視聴者が見せられたのは、無策の展開だったようだ。
1月15日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第72回では、ヒロイン・スズ子(趣里)を慕っていた小夜(富田望生)が冒頭で付き人を辞めると宣言。そこからいきなり3カ月が経過し、未だに小夜の行方は分からないという。
しかも前回、自身の楽団を解散したスズ子はこの3カ月、どうやらステージも務めていなかった様子。大学を卒業して村山興業に入社した恋人の愛助(水上恒司)を、妻さながらに支えているようだ。この展開に視聴者はモヤモヤを抑えきれないというのである。
「笠置シヅ子の生涯をモデルとした本作では、小夜が架空の人物であるなどドラマならではの創作要素が目立ちます。今後は小夜の代わりにマネージャーの山下(近藤芳正)が存在感を増すことになりそうですが、ドラマの中盤で大きな役割を果たしていた小夜がなぜ退場するのか、その理由もわからなければ、スズ子がステージを務めない理由も不明なまま。いったいスズ子はどうしたいのか、何を考えているのかが、物語からはさっぱり伝わってこないのです」(テレビ誌ライター)
そもそもスズ子が楽団の解散を宣言した理由は、戦後になって音楽が自由に演奏できるようになり、楽団員たちに活躍の機会が増えたことを彼女自身が喜んでいたからだ。
それはスズ子にとっても同じことで、彼女が務めるステージは連日盛況だったはず。自身の楽団を解散したところでスズ子へのオファーは引けを切らないはずで、彼女が3カ月も休む理由など見つからない。社会人となった愛助を支えるにしても、時間はいくらでもあるはず。視聴者としてもなぜスズ子が歌をお休みしているのか、さっぱり見当がつかないのである。
「笠置シヅ子の恋人だった吉本穎右氏は、笠置に引退してもらい、家に入ってもらいたがっていました。そして笠置自身も穎右氏との短い同棲生活時代をエンジョイしていたのです。しかしドラマのほうだと愛助はスズ子のステージに惚れ込んでおり、とても『歌を辞めてくれ』と言いだす空気感ではありません。その違いがスズ子の不自然な休暇として表出しているように思われるのです」(前出・テレビ誌ライター)
結局のところ、史実から離れようとすればするほど無理が生じてしまい、視聴者から見ても不自然な描写になってしまっているようだ。しかし笠置シヅ子の生涯を知らない視聴者にもその不自然さが伝わるのであれば、本末転倒ではないか。
今後も創作要素は盛り込まれていくに違いなさそうだが、せめてドラマとして不自然にならないことを、視聴者としては期待してやまないところだろう。