その伏線を思い出せる視聴者なんているのか。そんな疑問も浮かんだことだろう。
3月21日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第120回では、ヒロインのスズ子(趣里)が年末のオールスター男女歌合戦にて、新進歌手・水城アユミ(吉柳咲良)との新旧対決を了承。さらには水城が自身のデビュー曲である「ラッパと娘」を歌うことも了承した。
テレビ局側が提案してきた新旧対決に、スズ子の周りは猛反対。彼女と長年タッグを組んできた作曲家の羽鳥善一(草彅剛)も渋い顔を見せていたものだ。だがスズ子は羽鳥宅を訪れ、新旧対決を懇願。さらには羽鳥の作った「ラッパと娘」を水城に歌わせることも了承させたのである。
「今回のストーリーはスズ子のモデルである笠置シヅ子と、当時の新人歌手だった美空ひばりとの確執をモデルとしたもの。ただ笠置が大トリを飾った『第7回NHK紅白歌合戦』に美空は出場しておらず、二人の紅白共演はありませんでした。一方で笠置はその紅白で『ヘイヘイブギー』を披露しており、これは作中の設定と一緒。このように今回の内容は史実と創作要素がゴチャ混ぜになっているのです」(芸能ライター)
実在の人物をモデルにした作品の場合、どうやって創作要素を盛り込むかが難題になりがち。本作でも美空ひばりに相当する存在の水城を、スズ子の尊敬する先輩・大和礼子(蒼井優)の忘れ形見という設定にしており、あえて両者の確執を薄めようとしている。
羽鳥のモデルである作曲家の服部良一は、美空の存在をかなり疎ましく思っており、自身の手掛けた楽曲を美空が歌うことは決して認めなかった。スズ子は今回、水城が「ラッパと娘」を歌うことを羽鳥に認めてもらっていたが、これは史実と相反する内容なのである。
この辺には制作側の苦悩が見え隠れするようだ。その苦しみがゆえに、今回にはかなり無理やりな伏線回収が描かれていたというのである。
「2月22日放送の第100回では、ゴシップ誌の記事でライバル対決をけしかけられたスズ子と茨田りつ子(菊地凛子)が和解。羽鳥はスズ子のために『ヘイヘイブギー』を作っていました。その際、羽鳥は同曲を『陽気な恋の歌』と説明していたのですが、スズ子は娘・愛子の寝顔を見ながら『これはあんたとマミーの歌やで』とつぶやく場面があったのです」(前出・芸能ライター)
今回、スズ子は娘との親子愛を歌った「ヘイヘイブギー」を水城との新旧対決にぶつけると決心していた。それは第100回の伏線回収になっていたのである。
ただ本作で「ヘイヘイブギー」が出てきたのは第100回のみであり、歌唱シーンは一度も描かれていない。スズ子にとって大事な曲のはずなのに、視聴者にとっては男女歌合戦が初披露の場となるのである。
「男女歌合戦に水城を無理やり出場させたために、笠置が『ヘイヘイブギー』を歌うことにも何らかの意味付けが必要となり、こういった展開にしたのでしょう。もともと『ヘイヘイブギー』は茨田りつ子とのライバル対決のために書き下ろされたという設定だったのに、その設定はどこかに飛んでしまったようです」(前出・芸能ライター)
ともあれ、一カ月前にさらっと描かれたエピソードをどれほどの視聴者が覚えているというのか。伏線回収に気づいてもらえていない可能性も高いようだ。