浮世離れするほどの貧乏や富裕、二世タレントやメジャー賞レースの優勝ほか、お笑い芸人が世に出るパターンはいくつかある。しかし、ZAZYのように家庭環境が壮絶すぎて、フル尺でテレビ放映できないこともある。自身があまり公にしてこなかったのは、そのせいだ。
ZAZYが売れたきっかけは、「R-1グランプリ」の2021年と翌22年の準優勝。バラエティ番組的には、優勝者であるお見送り芸人しんいちとのケンカがハネたが、今年、街裏ぴんくが優勝したことで、しんいちとのバトルは終息を迎えつつある。
そもそもZAZYは、芸人になりたかったわけではない。教育虐待から逸れた道がお笑いだったのだ。大阪府出身で、父と母、弟の4人家族。190cm近い長身で、常に色付きのメガネをかけていた父は、「赤井塾」という学習塾を個人で経営していた。生徒は、大半がヤンキー。父は、荒れた生徒たちを1人で束ねるにふさわしい武闘派だった。
デキない女子中学生の頭を、勉強机に何度もぶつけた。通常塾は21時までだが、覚えられない生徒は深夜3~4時まで居残り。地元では、不良に向かって大人が「ヤンチャしたら赤井さんのとこ行け」と言うほど、“収監所”として有名だった。
長男だったZAZYは、智辯学園和歌山の中・高等学校を卒業後、一浪して東京理科大学経営学部へ進学した。合格するまでの“居残り”は、塾生を上回る過酷さだった。不得意科目だった英語の構文を覚えられなかった時は、「覚えるまで寝るな」と背中に包丁の切っ先を突きつけられて、居眠りした時点で「刺す」と脅された。まさに恐怖と背中合わせの暗記法だった。
「そんな日常だから、家族の会話はゼロ。息子たちは父に敬語を使っていたそうです。父の機嫌がよくなるのは、息子たちがテストでいい点数を取った時だけ。ご褒美でプレステⅡを買ってもらえても、翌週に点数が下がるとそれが叩き壊される。兄弟で計6台がジャンクされたとか」(実話誌の芸能ライター)
父と息子を仲裁しつづけた母は、やがて精神的に追い詰められた。自家用車でみずから事故を起こして、命を絶とうとしたのだ。中学2年生だったZAZYは、タクシーで父と2時間かけて収容先の病院へ急行した。車中で、「おまえが勉強せえへんとこんなことになんねん」と言われた時は、命より勉強を重視した父に完全に見切りをつけた。
父は高校受験専門の塾長だったため、ZAZYが大学受験を目指した高校生の時に加虐が終わった。そんな父の目を盗んで見たバラエティ番組が、当時は心の拠り所。登校拒否や浪人、引きこもりや大学中退を経験して、吉本興業が運営するNSC大阪校に在学中に、父が旅立った。
芸人という横道に逸れることで救われたZAZYの命。こんな壮絶な半生が書籍化や映像化されれば、「ホームレス中学生」を上回るヒットになること間違いなし!?
(北村ともこ)