小林涼子は役者としてもっと売れていいはずだと思う。そう思っている人はかなり多いのではないだろうか。小林涼子という画数の少ない地味な名前が(失礼!)、彼女の魅力を覆い隠しているのではないかと、これまでに何度首をひねったことだろう。
8月23日放送のNHK朝ドラ「虎に翼」第105話では、直明(三山凌輝)の粋な計らいにより、寅子(伊藤沙莉)と航一(岡田将生)は甘味処・竹もとで結婚式を開催してもらうことに。寅子と航一は令和で言うところの「事実婚」のため、法服姿の久保田先輩(小林)、中山先輩(安藤輪子)、梅子(平岩紙)、轟(戸塚純貴)、よね(土居志央梨)、涼子(桜井ユキ)、玉(羽瀬川なぎ)、香子(ハ・ヨンス)といった明律大学時代の旧友たちによる「裁判仕立て」で独創的な結婚式は進められた。
久保田先輩の「主文。私たちは申立人の夫婦それぞれの姓での婚姻関係を認める」に始まり、轟(戸塚純貴)による「我々の主張には法的効力はないが、これを2人への結婚の祝いの言葉とする」で締めくくられた。
可憐な容姿とはうらはらに、凛とした口調で快活に話す久保田先輩とその役を演じる小林自身は、「意志を貫く」という点でよく似ている。4歳で子役デビューし、クラシックバレエに打ち込んでいた時期もあったが怪我で断念。新垣結衣と同時期にローティーンファッション誌「ニコラ」で専属モデルとして活躍。その後、俳優としても活動するようになり、2008年放送の大野智と生田斗真がW主演したドラマ「魔王」(TBS系)でサイコメトリストのヒロイン・しおりを演じて大注目された。
また、2010年からNHKワンセグ2で放送され、その後NHK地上波でシリーズ放送された江口のりこ主演ドラマ「野田ともうします。」では、地味で気味悪いキャラクター「重松さん」を好演。「しおりが重松さんに大変身した!」と当時は大きな話題となった。
そして現在の小林は、新潟の棚田で稲作を手伝ったことをきっかけに、2014年から農業に携わるようになり、2021年5月には農業の持続と障がい者の社会参画を目指す株式会社AGRIKO(アグリコ)を設立。今年5月にはアート事業を行うArt Technologies株式会社と合併してパラアート事業にも乗り出した。
東京都世田谷区桜新町や品川区東五反田のビルの屋上で「アクアポニックス」(養殖×水耕栽培のシステムで行う循環型の農業)を展開したり、後継者不足の農業と雇用問題を抱える福祉の連携を目指す「農福連携」を基盤に、企業と障がい者のマッチングや雇用後のサポートまでを展開。農福連携技術支援者の資格も取得している。
今年3月には農林水産省から、食料・農業・農村政策審議会 食糧部会 臨時委員にも任命され、小林は将来を期待されている企業の社長としても大活躍しているのだ。
本気で農業に向き合っている小林に、これ以上「役者としてもっと頑張れ!」とは言いにくい。それでもやっぱり、役者としての小林をもっと見たいと思う気持ちは止められない。
(森山いま)