玉子、大好きです。日本中、いや、世界中の多くの方がそうなんじゃないかと思います。そしてまた、数えきれないほどにメニューにバリエーションがあるのも、玉子料理の魅力。
玉子かけごはん。神ですよね。生の玉子をごはんにかけて、醬油をたらしてかきまぜるだけ。それだけであんなにうまいんだから、ちょっと存在としてバグッていると言っても過言ではないでしょう。
また、調理方法の1つ「ゆでる」を例にとったって、とろとろの半熟玉子から、固ゆで玉子まで、無限のグラデーションがある。ちょろりとめんつゆを垂らした、温泉玉子の究極の優しさ。包丁で半分に切ると黄身がとろりとあふれだす、半熟玉子のお宝感。固ゆで玉子の実直さ。もうなくなってしまったのですが、東京都江東区の木場に、女将さんが注ぐホッピーが絶品な名酒場「河本」というお店がかつてありました。おつまみはごくシンプルなものしかなく、僕が訪れた時に何気なく「ゆで玉子」を頼んだら、隣の常連さんが「マヨネーズと塩コショウをこれでもか! とかけて食うとうまいよ」と教えてくれたんです。そこでその通りにしてみたら、これがもう、王者の風格すら漂う酒のつまみっぷり。ホッピーが進む進む。それ以来、家でもたまにまねしています。ただ、うまいはうまいものの、河本のあのゆで玉子にはかなわないんだよな~。
中華料理屋の中でも僕が特に大好きなのが、「ニラ玉」と「木須肉」。餃子やチャーシューなどもそりゃあいいんですが、ちびちびつまめて長持ちするという利点もあり、かなりの確率で頼んでしまいます。
ニラ玉、ニラと玉子の割合がお店によってけっこう違うのが楽しい。トロトロの玉子焼きにシャキシャキのニラのアクセント、というのがオーソドックスだと思うのですが、先日、錦糸町の「山城屋」という店で食べたニラ玉は、これ、ほぼニラ炒めじゃん! ってくらい、ニラ率が高かったんです。それでいて、玉子の優しさが、なくてはならないアクセントになっていて、うまかったな~…。
キクラゲ、豚肉とともに玉子を炒める木須肉も、間違いないですよねぇ。新宿・思い出横丁の中華居酒屋「岐阜屋」なんか、膨大なメニューがあるにもかかわらず、トップクラスの人気メニューが木須肉らしいですからね。それだけ絶妙な取り合わせだということでしょう。
って、まだまだ好きな玉子料理はありすぎて、とてもここでは書ききれません。なので、ここからは圧倒的に個人的な意見を語らせてもらいます。玉子料理、それも“酒のつまみ”と考えた時に僕が最も好きなのは、ずばり「青唐辛子入り玉子焼き」。
夏が近づくと八百屋やスーパーの店頭に並びだす、赤く色づく前の唐辛子。そのフレッシュな香りと辛さは、好きな人にはたまらないものがあります。これを細かく刻んでトロトロの玉子焼きに混ぜたものが、オーソドックスな青唐辛子入り玉子焼き。ただ、それにも2パターンあって、生の唐辛子をそのまま刻んで入れた、刺激的な辛さが魅力のタイプ。もうひとつは、醬油漬けにした青唐辛子を使った、辛いんだけれども熟成感のある深みを感じさせるタイプ。どちらも好きですね~。僕も夏になると必ず、家で青唐辛子の醬油漬けを作り、1年くらいは余裕でもつので、通年で玉子と炒めて楽しんでおります。
あの爽やかな辛さと、玉子のまろやかな優しさのハーモニー、もはや奇跡ですよ。
さて次回のテーマ。この連載も次回が100回目、そしてなんともキリのいいタイミングで最終回ということで「酒とは? そして酒場とは?」でどうでしょうか?
パリッコ:酒場ライター。著書に「酒場っ子」「天国酒場」など多数。スズキナオ氏との酒飲みユニット「酒の穴」としても活動している。「パリッコの都酒伝説ファイル(2)」絶賛発売中!