カンヌ出品直前に「主人公」女性ジャーナリストが死去…評論家評1位のドキュメンタリー映画が投げかける「戦争のリアル」
第78回カンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品され、映画評論家評価第1位となった「手に魂を込め、歩いてみれば」が12月5日から公開となる。
今作は、戦火のガザで暮らしているフォトジャーナリストのファトマ・ハッスーナ(享年25)と、イランから亡命し現在はフランスを拠点に活動するセピデ・ファルシ監督(60)の2人が、2024年から25年の約1年間、スマートフォンのビデオ通話でのやり取りを記録したドキュメンタリー映画だ。
ファルシ監督は、イスラエル・ガザ戦争が23年に勃発した後、どうにかガザに入って現状を知りたいと思っていたが、それは不可能だった。そこで、知人を頼りガザに住む当時24歳のファトマと連絡を取ることができた。同じ女性ではあるが、30歳以上も年齢差があり、互いにネイティブではない英語でのやり取り。それでも2人は、互いの仕事を尊重し、時には親子のように、いつ、途切れてしまうかわからない会話を続けていく。
戦火にいるファトマは、朗らかで笑顔のステキな女性だ。しかし、空爆が続き、家族を失い、親友が殺され、飢えに苛まれる生活の中で、ファトマの肌には吹き出物が多くなり、頬はこけていく。それでもファトマは「チキンが食べたい。一口でいいからチョコレートが食べたい」と笑みを見せる。
だが、ファトマには残酷なラストが待っていた。
「この映画は、2025年カンヌ国際映画祭ACID部門に正式出品され、映画評論家評価第1位となりました。実は、出品された作品と今回公開される映画は、ラストが違うんです。ファルシ監督は、ファトマと一緒に5月13日から開催される映画祭に行くために、書類を整えていました。その矢先の今年の4月16日、ファルシ監督はファトマの死をニュースで知ることになります。つまり、出品された作品では、ファトマは存命で、公開される映画のラストは、ファトマの死の報告なのです。ガザを出てファルシ監督と初めて対面できること、カンヌに行けることを笑顔で喜んでいたファトマはもう、いないのです。この事実が、戦争の残酷さを如実に表していると思います」(週刊誌記者)
映画のタイトルは、ファトマがガザの街を歩いている時につぶやいた言葉だ。
「手に魂を込め、歩いてみれば」は12月5日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開される。
