厚生労働省の「市町村別平均寿命調査」(2013年7月)によれば、長野県北安曇郡・松川村が日本一の長寿村となっている。平均寿命が82.2歳とは驚きだが、かの町では長寿促進のために何か特別な政策が打たれているのだろうか。
松川村在住の河村さん(78)に話を伺った。現役農家として、精力的に仕事に取り組んでいる男性だ。
「村として何か特別なことってのはないと思いますよ。ここらでは昔から『ピンピンコロリ』と言って、独特の食生活が存在してるので、もしかするとそれが元気な年寄りを生んでるのかもしれませんね」
ピンピンコロリは、元気に歳を重ね、死ぬときはコロっと安らかに逝くことを形容した言葉だ。
実際のピンピンコロリ食の例を挙げていただいた。
「昔から食べてるのは蜂の子ですかね。佃煮にして」
蜂の子を醤油や砂糖、みりんで炊いたものをご飯に乗せる、「ハチノコ飯」も良く食べられているそうだ。
蜂の子と長寿に因果関係はあるのか、地元の医師によれば、「医学的な根拠はありませんが、タンパク源として非常に貴重なもので、古くから薬として使われてきたもの」とのことだ。
他にも酒粕入りの味噌汁が多く食されているという。
「酒粕が入ると、そのぶん味噌の分量を減らせるんですよ。結果的に、塩分控えめの味噌汁になる」(河村さん)
古来より受け継がれてきた食生活が、体のために考えられたものであるという証左だろう。
またユニークなのが、「田鯉」料理を食べる点だ。
「田んぼで育てた鯉の内臓を取り除いて、醤油や味噌を塗って食べるんです。これはね、ものすごく元気になりますよ」(河村さん)
先の医師によれば、やはりこの鯉料理にも長寿の秘密が隠されているという。
「疲労回復に役立つビタミンB1や、成長ホルモンの分泌に一役買うアルギニンが豊富な食材です。滋養強壮に最適ですね」
他にも「リンゴを皮ごと食べる」など、丸ごと野菜、果実を摂り入れる文化もあるそうだ。やはり長寿村は、なるべくしてなったといったところだろうか。
それでも河村さんは、特別なことは何もしていないと言葉を続ける。
「地元で採れたものを、地元で消費する。地産地消ってやつですよ。健康的に効果があるのかはわからないけど、昔からそうやって暮してきたので、私たちの体がそれに馴染んでるんですよね。どこのものか素性のわからない食材を口にしないというのも、もしかしたら何か良い影響があるのかもしれません」
自然が広がる街で作られた安心できる地元食材を、地元の人間がしっかり体に摂り入れる。よけいなモノが入っていないからこそ、ストレスなく元気に暮らせるのかもしれない。松川村にはそんな土壌や雰囲気が感じられた。